少年は再び地面を蹴り、凰鬼との間合いを詰める。

右腕を頭狙いで振るうが、楽々と避けられ、時間差で伸ばした左腕も弾かれてしまう。

「無駄だって」

凰鬼は相も変わらず、涼しい表情。


「だから、莎夜なんかに利用されるんだよ」

「―ッせェンだよ!」


怒り任せに闇雲に振り回した腕が、凰鬼の顔を掠めた。


「なっ―」


数歩下がって、凰鬼は頬を拭う。

数センチある傷口からは、血が滲んでいた。



「…」



凰鬼はしばらくそれを見つめると、


「…クク、」


この場には不釣り合いな笑いを漏らした。

「そうだね、少し、油断したかな。」

無感情な視線を少年に移し、

「貧弱な攻撃を当てられた、ご褒美をやるよ」

口角を上げるだけの、笑みを作った。
  
凰鬼の姿が、見えなくなる。

同時に、



ドン―



鈍い衝撃が腹に走った。


「……」


最早、声すら出ない。

生暖かい何かが脚を伝い、地面に染みを広げる。

崩れ落ちる直前に、凰鬼と視線がぶつかる。


「―、!!」


どこまでも無表情なのに、殺気が滲み出ている。

その瞳に、少年は、ただ恐怖するだけだった。

そこで、少年の記憶は途絶えた。
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