あなただけは、どうか

思い切り扉を開けると、寝台の上に座る金色の彼がいた。まん丸に見開かれた琥珀色の瞳と、視線がかち合う。「あ、」と何か言いかけて口を開いた善逸に歩み寄っていくと、彼は唇を引き結んで、その眉を情けなく下げてしまった。


「善逸、」
「…ごめんね」


また、善逸が怪我をした。彼は鬼殺隊士、怪我をしないなんて土台無理な話。それでも、恋人が怪我をする姿を呑気に見ていられるほど、私は強くはなかった。


「…痛かった、よね」
「…うん」


その腕に巻かれた包帯にそっと触れる。薄い布越しに伝わる熱い感覚に、涙がこぼれた。落ちていくそれは、体温を移した布に小さな染みを幾つも作る。


「私が泣いても仕方ないのに、ごめん」
「いいよ、ごめん、心配かけて」


こんな時にまで私に謝る、そんな優しい優しい善逸が傷付くたび、私の心もズキズキと痛む。誰かのために傷付くあなたなんて、見たくないのに。


「こんな思いするなら、好きにならなきゃ…よかった」


善逸が、小さく息を呑む音が聞こえた。恐る恐る顔をあげると、滲む視界に苦しそうな彼の表情が映る。


「そんなこと、言うなよ」
「…ごめん、」


私の片手を包み込む善逸のそれは、彼の弱々しい表情とは裏腹に、力強さを湛えている。ごつごつした感触、所々に見える古傷。刀を握って、たくさんの人を守ってきた手。この手に触れる瞬間が、私はいっとう好きだ。


「もっと強くなるから、嫌いにならないで」
「…違うよ、なれないよ、嫌いになんか」


空いた手を乗せて、私より一回り大きい手に重ねる。ねえ、ならないよ。ならないから、もう強くならなくたって、戦いに行かなくたっていいよ。
でもそんなこと言えやしないから、またきっと明日も、あなたの無事だけをひたすら願う。命を賭して戦うあなたの背中を、押せなくてごめんね。




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