赤がすべてを崩すから

「なぁ、二人で抜けないか?」


サークルの飲み会で、ぬるくなったビールのグラスをぼーっと握る私にそう声をかけてきたのは、竈門炭治郎。一見ロマンチックにも思えるその台詞は、私達の間ではその甘い色を失ってしまう。


「いいね。そうしよ」


何故なら、私達は高校生の時からずっと友達だから。何度か朝まで飲んだこともあるけど、一度としてありがちな間違いは起こらなかった。私たちはずっと友達でいるんだろうなと、なんとなく私は思っている。炭治郎も、きっとそう。

お金は先払いだから、周りに勘付かれないようにこっそり店を出るだけ。二人共うまく切り抜けて店の外に出て、やったね、と笑い合う。


「どこか行きたい所はあるか?」
「うーん…飲み放題が安いとこ」
「まだ飲み放題で飲む気なんだな」


少し呆れた風に笑う炭治郎に、私も同じように笑い返す。


「……はいはい、バーとか言えるようなモテ女じゃなくてごめんね」
「モテないのか?」
「そんなどストレートに…そうよ、モテない女なんです」


そう言うと、炭治郎の形のいい眉がぴくりと動く。どうしたの、そう聞く前に、炭治郎が大きくため息をついた。


「まだ、気付かないのか」


え、と声を漏らす私との距離を、炭治郎が一気に詰める。靴と靴がぶつかってしまうような距離まで歩み寄られて、突然のことに動けないでいると、からん、と耳元で何かが揺れる音がした。
それが耳飾りが奏でる音だと気付いたのは、「なぁ」と吐息混じりの声が鼓膜を揺らしてから。


「君を好いてる男は、ここにいるだろう?」


また、耳飾りが小さな音を立てて。すぐ側にあった炭治郎の熱が離れて、生温い風が通り抜けていった。
深く輝く紅玉みたいな瞳が、私の体温を上げる。待って、そんな目、初めて見た。
堪らず視線を逸らした私に、「甘い匂いがする」と炭治郎は口角を上げた。



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