アイラブユー・ハウリング

「俺さ、君じゃないとダメなの」


そう言ってやると大抵の女の子は目をまん丸にして、それから胸焼けしそうなくらいの甘ったるい音を響かせる。簡単だ。浮気を疑われていようと、交際への不誠実さを指摘されていようと、「特別がほしい」なんて音で訴えかけてくるから、パズルのピースをあてはめるみたいに言葉を宛てがってやる。そんなことでいとも簡単に、落ちる。
まるでゲームだ。恋愛なんて俺にとってはきっとその程度で、特に不満だって感じちゃいなかった。


はずだった。他大学のサークルとの合同飲み会なんてありふれた場で、端っこのほうでひとりぽつんとグラスを握りしめる女の子に「どしたの?」と声をかけに行く、常套手段。そんな何の変哲もない出会いだったのに、俺を捉らえる彼女の瞳が、聴いたことのない澄んだ音が、俺の心をぐらぐらと揺さぶって。その日から俺は、強烈な渇きに襲われてしまうようになった。




「私はさ、善逸が好きだよ。でも善逸はそうじゃないよね」


俺は彼女と一緒にいるようになってから、他の女の子はみんな切った。いつもみたいに口も回らなくて、身体を寄せ合うことすら出来なくなってしまったから。
それなのに、哀しそうな目で、ひんやり湿ったような音をさせながら、俺が惹かれてやまない彼女はそう言う。なあ、じゃあさ、俺はどうしたらいいんだよ。


「そんなことないよ、好きだよ、おまえのこと」
「……だって善逸、いろんな女の子と遊んでるって聞いた」
「それ、は、前までの話。ちゃんとみんな別れたよ」
「…それでも、嫌。わかんないもん、私みたいな普通の人間と、わざわざ一緒にいる理由が」


そう言って、俺の手を振り解く。俺だってうまく言葉にできないよ、どうしてこんなにも惹かれるのか。

でも、おまえに関しては。どうでもいいと思うことがひとつだってない。哀しませたくない。そんな顔、させたくない。こんな音、聴きたくない。振り解かれた手をまた握ると、彼女は存外素直に足を止めた。


「俺はおまえじゃないとだめなのに、おまえは俺じゃなくてもいいの?」


こんなこと、いつ想像したよ。
ご自慢の口説き文句で、女の子をみっともなく引き止める自分の姿なんて。「私だって善逸じゃないといやだよ」そんな言葉に浮き立つ気持ちなんて。流れ落ちていく涙に心が痛んで、つい手を伸ばしてしまう、まるで優しい男みたいな俺なんて。




title:3gramme.



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