まぶしくて純情




気に食わねぇ。

今日は10代目とリボーンさんが海に行くというのでご一緒したわけだが、野球バカにアホ牛にその他諸々邪魔が入りすぎて、さっきからイライラしっ放しだ。キャッキャと騒いでいる女子三人組もうるせぇし、本当に気に食わねぇ。


「京子ちゃんハルちゃん、誘ってくれてありがとうね!」


三人組の真ん中を歩きながら笑っている、同じクラスのそいつ…みょうじの声。波の音だって喧騒だってうるさいはずなのに、不思議なくらいに耳に響いてきやがる。

そんな中、笹川たちが飲み物を買いに行ったとかで一人になったみょうじが、「獄寺くん、なんでそんなに難しそうな顔してるの?」なんて笑いながら、隣に並んできた。

「あぁ?」と感情のままに返事をしてしまいながら、そいつを見遣ると。
抜けるように白い肌が強すぎる日射しに照り返されてきらめいて、華奢なくせに柔らかそうだなんて瞬時に考えて、しまって。
つい視線を逸らしたところで、あることに気付いた。そのかがやきに如何わしい視線を向ける男は、この広い砂浜に一人や二人じゃないということに。

…なんで、こんな風に思うのか理解できないが。気に食わねぇ。なんにも気付かないでぼーっと歩き続けるこいつも、ロクでもねぇ周りの男共も。


「あれ? 獄寺くんも泳ぎに行く?」


羽織っていた薄手のパーカーを脱ぐ俺を、きらめくビー玉みたいな瞳で見つめながら、そいつはよく通る声で言う。涼やかで甘やかな声に言葉を返す代わりに、その細くて頼りない肩にパーカーを掛けてやった。


「これ着てろ」
「えっ」
「おまえ、…ちょっとは危機感持てよ」
「あ…うん…?」


首を傾げてから、パーカーにいそいそと腕を通す様子を少し眺めて。それから直ぐに、周囲に睨みをきかせてやる。視線がかち合った奴らは全員気まずそうに目を泳がせて、それから誤魔化すみたいにあさっての方向へ歩いていくから、つい安堵の息をもらしてしまった。


「獄寺くん」
「…なんだよ」
「ありがとう」


そう言って、ふわりと柔らかい笑顔を向けてくる。薄く染まった頬に、すこし潤んだ瞳。真っ白い肌を覆い隠すのは、こいつには少しサイズが大きい俺のパーカー。

心音が、うるさすぎる。暴れ回る心臓を押さえ付けたくて視線を逸らしたのに、おまけに「獄寺くんの匂いがする」とまで、言いやがるから。

なんだって、俺がコイツのことでこんなにも頭を悩ませて。意味のわかんねぇ感情を抱えてんだよ。
本当に、本当に気に食わねぇ。




20200810
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負
お題「危機感持って」




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