あとがき


「ジェネレーションギャップ」をお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

 懐かない猫のような無一郎くんを養いたいな……と疲れた頭で考えて、大正と平成のジェネレーションギャップに一緒に目を回せたら面白いなってワクワクして、「チューニ病? 何かの病気?」と眉をひそめてもらいたくて……そんなぼんやりした想像を書くだけの気軽なパロとして考えて、ただ楽しいだけのお話にできたらなあと、はじめはそんな風に考えて筆を取りました。
 けれどお話を組み立てて、設定を詰め込んでゆくうちに、無一郎くんの幸せについてたくさんたくさん考えるようになりました。不思議な出会いと見知らぬ世界、それでも一緒に笑ってくれる人がいて、そうやって形作られた日常が、君の幸せのほんの一部にでもなれたらいいのにな、なんて思うようになりました。
 無一郎くんに生きていてほしかった、と。今もずっと思っています。でも君がまっすぐ生きてきた時間のすべては本当にこの上なく美しいもので、さいごまで生き抜いた君自身だってきっと、言っていた通りに後悔なんか少しも残していなかった。だからこそ、仲間のために命をかけた君の、君らしい最期と生涯をなかったことにはしたくなくて。きちんと向き合うのなら、「時透無一郎」の生涯を私なりに尊重したくて、すべてが終わった世界線でのお話にすることに決めました。

「幸せは長さではない 見て欲しい 私のこの幸せの深さを」
 この言葉が突き刺さって、何度筆が折れかけたかわかりません。無一郎くんが心に抱えた宝箱は、あの時代で生きた日々のたいせつな思い出でいっぱいで、生き抜いた先でまた会えた有一郎と父と母以外、もう誰の手も加えるべきではないのかもしれないと思ったからです。
 でもやっぱり、長さではないけれど、それでもまだ。ずっと鬼への怒りを抱えて生きていた君にただ心休まる時間があって、年相応にたくさん笑って精一杯涙を流せる場所があって、深い深い幸せがもっともっと続いていてほしいと、そう願ってやまない気持ちでなんとか筆を走らせていました。

 鬼殺隊において勝利や苦難の終わりを表していた、夜明け、春、桜を、いちばん最後の戦いの後に見られなかった無一郎くんのことを思うと本当に辛くてたまらなくて、そんな理由でこのお話のラストは「春」を強く意識していました。夜が明けて朝が来て、冬が暮れて春が巡ってきて、そんな当たり前を、ちゃんと君にも手に入れてほしかったから。
 それから、これは夢主のデフォルトネームの話になってしまうのですが(苦手な方は読み飛ばしてください、すみません)、「さくら」というのもそういった意図からつけた名前でした。真っ直ぐ生き抜いた先で出会った、“必勝”を象徴する花と同じ名前を持つ人が、君の幸せの続きそのものになる未来があればいいな、というふうにも思っていて……。

 そうやってたくさんたくさん時透無一郎くんのことを考え続けて、私の自己満足であり、あまりに激しすぎる幻覚でもありますが、無事完結に漕ぎ着けることができました。途中ずいぶん長く放置してしまい完結まで三年近くかかってしまいましたが、反応やコメントをいただけるたびに飛び跳ねてしまうほど嬉しくて、本当に励みになりました。完結後も感想をいただけたり、本を手に取っていただけたり……精一杯に無一郎くんの幸せを願った物語を愛してくれる方がいることが、筆舌に尽くしがたい喜びです。ありがとうございます。
 暖かい反応をくださった皆様、お読みいただいた皆様。すべての方々に心より感謝しております。何度言っても足りないくらい、本当に、本当にありがとうございました。

 諸々を飛ばして数年後の話を書いてしまっていたりもしたのですが、無一郎くんが夢主を好きになった理由や、このふたりが想いを通じ合わせる過程は丁寧に書きたいなとずっと思っており……ちらほら言っていた続編に本格的に着手しています。「ひととして大切」が根底にあって揺らがない、運命に逆らってでも会いたいと願った、そんなふたりの気持ちが恋愛にうつりかわってゆくまで。いつもマイペースな更新で恐縮ですが、引き続きゆったりとお付き合いいただけますと幸いです。
 無一郎くんへの気持ちが重すぎて大きすぎて、後書きも恐ろしいものになりそうでなかなか纏められなかったのですが(実際なってしまいましたが)、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

 きらきら豊かに輝く感情を抱えた、やさしくてあたたかい無一郎くんが大好きです。今日も君がたくさん笑って、くだらないことでちょっと怒って、ちゃんと素直に拗ねて、哀しいときは我慢せず泣いて、小さなことでも大きなことでも喜びを噛み締めて、やっぱりたくさん笑って、そうやってまっすぐ生きていられますように。君のそばにいてくれる人とのあいだに生まれる、かけがえのない深い深い幸せが、できる限りに長く続いていきますように。



20200624 〜 20230510




image song

「3月9日」/ レミオロメン
→別離を経て、お互いの大切さを感じるふたりのイメージです。

「ココロノナカ Complete ver.」/ RADWIMPS
→ふたりで過ごした日々を振り返って、もう一度さくらさんに会いたくてまっすぐ歩く無一郎くんのイメージです。

「small world」/ BUMP OF CHICKEN
→出会いが単なる偶然でも、お互いを深く知らなくても、ぜんぶ知ることができなくても、ふたりだけの小さな世界は紛れもない宝物だったと感じているふたりのイメージです。



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