また編んであげるからね






「悠馬、マフラー買い替えないの?」

少し毛糸がほつれて、毛玉ができてきたマフラーを指差して言うと、悠馬は照れ臭そうに笑う。

「うち、貧乏だからさ。まだ全然使えるし、買い替えてられないんだ」

ふうん、と返すと、悠馬は少しだけ歩く速度を速めた。
本当はわかっている。

あれは私が小学六年生のとき、お母さんに教えてもらいながら、なんとか完成させたマフラーだ。
悠馬くんに、12歳の誕生日プレゼント!って、はりきって。
そんなに上手にできていないのに、悠馬はすごく喜んでくれて。
編みが甘かったのか、あれは初めからほつれていた。
しかも小学六年生のセンスとは今見ると大変にダサいもので、鮮やかな青の毛糸一色で、何の模様もなく編まれている。
マフラーだけ見るとすごくダサいが、悠馬が着けるとなかなかに似合っているから困るわけだけど。

悠馬がそれを着け続けてくれて、早くも四年目。
この前殺せんせーも悠馬に私と同じことを言って、マフラーを作ってあげようかと迫っていた…気がする。
だけど、そろそろ可哀想になってきた。

「ゆーうま」

ん?と振り返った彼の首から、短いマフラーを引ったくった。
目をぱちぱちさせる彼に構わず、それを自分の首に巻いて、カバンをごそごそと探る。

「なまえ?」

不思議そうな顔をする悠馬に包みをずいっと差し出すと、彼は気圧されたように受け止った。

「なに?これ…」
「開けたらわかるよ」
「え、俺にくれるの?」
「そりゃそうでしょ」

包みを開けると、私が三ヶ月かけて編んだ、ボルドーのマフラーが姿を現した。
おばあちゃんに教わりながら、長めに、そして丈夫に、だけどケーブル模様も付けておしゃれに。
色は、似合いそうだなっていう私の独断と偏見だけど。冬らしいし、良いかな。

「…なまえ、これ、俺に?」

目をきらきらさせて顔を上げた悠馬がなんだかすごくかわいく見えて、思わず笑ってしまう。

「うん、悠馬に」

そう言うと、さっそく悠馬はそれを首に巻いて、私に微笑んだ。
私が微笑み返すと、悠馬は私の首から青いマフラーを奪い取って、丁寧に畳む。

「え、新しいのあるのに、」
「…これも欲しい、なまえが初めてくれたんだから」

少し頬を赤らめてそう呟いた悠馬のせいで時が止まったような錯覚に陥って、慌てて目を逸らす。
ああ、これだから付き合ってるんじゃないかと思ってしまうんだ。
幼馴染なのに、時折悠馬が見せる表情はそれを私に忘れさせてしまう。
悠馬の首から離れたマフラーはただの古ぼけた布に見えて、そんなものを大事そうにカバンにしまう悠馬がなんだか面白くて、それ以上に愛おしかった。






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