蕩ける夜に口づけを






夜も更けた頃、小さな音を立てて万事屋の扉が開いた。
なかなか寝付けずダラダラ起きていたが、ようやく眠気がやってきたかという頃だったのに。
閉じかけていた瞼が開く。
布団から這い出して居間に顔を出すと、ほろ酔いといった様子の銀時と目が合った。

「わりィ、起こしたか」

「いや、起きてた」

薄暗い部屋で、冷蔵庫の明かりに照らされる銀時。
ぱちっと電気をつけると、彼は眩しそうに目を細めた。

「は?起きてたってオマエ」

「なんか寝れなくて」

「銀さんを待ってたとかじゃねェのな」

「まあね」

ぐっと伸びをしながらそう答える私を見て、わざとらしくため息をつく銀時。
あれ、思ったより受け答えがしっかりしてる。

「そうです愛しい銀時さんを待ってましたとか嘘でも言っとけよ」

そう言ってから、銀時は大きな欠伸をひとつ零した。
ほんのり頬は赤いように見えるが、目は据わっていて、意識があるどころかほぼ普段と変わらない。
こんな真夜中まで飲み明かして来れば当然ベロベロになっているものだとばかり思っていたが、少し安心した。
こっちは眠いというのにお構いなしにハイテンションで絡み倒した挙句、私がすっかり目を覚ましてしまってから、彼は突然糸が切れたように自分だけ眠るのだ。めんどくさい。

「銀時、あんま飲んでないんだね」

「んー?まァな」

冷蔵庫からイチゴ牛乳を取り出すと、パックのままがぶがぶと飲む。
いつもコップに入れなさいって言ってんのにな、もう。

「なんで?夜中まで長谷川さんとかと飲む時、クソめんどくさい絡みの酔っ払いになるのに」

「クソめんどくさいとか言うなよ、彼氏だぞオイ。…まァ、俺にも色々考えがあるってこった」

「考え…?」

首を傾げると、銀時にぐいと腕を引かれる。
抱きしめられたことを理解したのは、鼻の奥にアルコールの匂いが届いてから。

「…お酒の匂いする」

「そらそーだろが。ま、いつもみたいに酒臭くはねェだろ」

「まあ、うん」

寝ているところに全体重をかけられて起こされる時、その酒臭さに毎度毎度イラつく。
それなのに、銀時に今優しく抱きしめられている状態で香る微かなアルコールの匂いは、なぜか甘美な物に感じられて、頭が少しだけくらくらした。

「銀と…」

そのまま動かない銀時を呼ぼうとした口を、彼のそれで塞がれる。
アルコールの匂いが濃くなった。自分まで酔っているような感覚。

「本当は、」

唇が離れて、至近距離で目が合った。
綺麗な綺麗な彼の瞳。
少し酔っているせいか潤んでいて、一層美しく見えた。

「なまえの寝込み襲ってやろうと思っててよ、酒で失敗するわけにはいかねーだろ?だから今日は控えめにしてたんだよ」

「なにそれ…」

「まァ、おめーが起きてるから失敗だけどな」

良くも悪くも銀時の彼女でいることに慣れて、トキメキが減ってきた最近だった。が、今はやたらとどきどきする。
心臓のうるささに慌てた私が、銀時の胸元に手を置いてぐっと力を入れると、案外すんなり銀時は離れてくれた。
な、なにこれ。私も酔っちゃった?

「…それなら起きててよかった」

「よかねェだろ」

可愛くないことを言う私を銀時はまた抱き寄せると、そのまま担ぎあげた。
慌てて抵抗してみるがなんの効果もなく、あっという間に数分前に這い出した布団に投げ捨てられる。
投げ捨てられるというにはいささか優しすぎるが。

「ぎ、銀時」

そのまま私に覆いかぶさった彼は、首筋に顔を埋める。
彼の吐息が擽ったくて、息が詰まる。

「わかんねえ?」

「っ、なにが、」

「酒も我慢するほどおめーが欲しいンだよ」

強く手首を押し付けられて、荒々しく唇を重ねられる。
また頭の奥のほうまでお酒の匂いが染み込んできて、それはいとも簡単に私の思考能力を奪った。



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