SSつめあわせ

抱えたひみつを数えよう



「つなくんには、まだひみつ」


 そうして向けられた小さな背中を、何年、何十年経ったってきっと、オレは忘れることはできない。忘れようとも思っていないけれど。

 4歳くらい、だったと思う。物心つく前から一緒にいた幼馴染の女の子が、何かを大切そうに抱えて歩いていた。だから「ねえ、なに持ってるの?」って訊いたんだ。するとその子はそっぽを向いて、ひみつだと言った。
 初めてそんな態度を取られたから、オレは情けないことに泣き始めてしまって、するとその子は慌てて振り向いて。「つなくんのお誕生日プレゼントだから、まだひみつにしたかったの」って、折り紙でつくった動物たちを抱えたまま、オレの髪を優しく撫でてくれた。




「何してるの?」
「あっ! 見ないで! まだひみつなの!」


 なにやら机に向かって熱心に手を動かしていたから、ふと声をかけてみると。覆い被さるみたいにして、彼女は慌てた様子でそれを隠してしまった。

 その背中は、あのときよりずっとずっと大きくなった。それから、ずっとずっと、綺麗になった。気付いたらもう20年も経ってるんだもんな。「見ないでよー」と悪態をついてくる背中に、「見てないよ」と笑いながら返す。

 君のひみつと一緒に、オレはひとつずつ歳を取ってきた。折り紙、絵、手紙、お菓子、アルバム、他にもたくさん。君のひみつを明かすのは、これからもずっとオレでありたいな。あの時のお返しとばかりに髪を撫でてあげると、腕の中のひみつを大切に抱えたまま、とびきり幸せそうに笑ってくれた。



20201016 #復活夢版深夜の真剣創作一本勝負
お題「ひみつ」



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