君の瞳に恋してない
※上司部下設定「獄寺さんって綺麗な目してますよね」
ぐい、と覗き込むみたいにしてそいつが顔を寄せてくるから、つい仰け反ってしまう。けれど言い返す暇もなく「本当に綺麗なみどり色」と満足げに呟かれて、あっさり離れていってしまった。
「いきなり変なことすんな、外回り中だろ」
「なにもなくて暇じゃないですか」
「10代目から頂いたお仕事を暇とか言うんじゃねぇ!」
「きゅ、急に怒らないでください!」
パワハラだとかなんだとかぼやくのを横目に、これ見よがしに大きめのため息をついてやる。「幸せが逃げますよ」なんて桜色の唇が尖った。
「……無視ですか?」
ふいと顔を背けると、「無視ですか……」と語尾の下がった声が聞こえてくる。街の喧騒、その中でなぜか際立って耳に入る俺たちの足音。揺れ動く太陽に照らされる下で、誤魔化すみたいに歩みを少し早めた。
……綺麗な目、か。言われたのは初めてではなかったけれど、やはりどこかむず痒い。実の所こいつが俺の部下になってから、何度も言って貰った事だった。俺の目の色くらい、イタリアにでも来れば珍しいモンでもないだろうに。
対して彼女の瞳は、俺とは似ても似つかない色をしていた。日本人らしく色素の濃い、焦げたブラウンの虹彩。
うらやましいです、そんな声を思い出す。羨んでる暇なんかあるもんかよ。何故って、俺はよく知っていた。ちょうど今日みたいなまばゆい太陽に照らされると、その瞳は光を吸い込んでしまったみたいに、淡くあかるく透き通ってきらめき出す。他意なく純粋に、綺麗だと思う。
見慣れていないだけかもしれなければ、単なるないものねだりかもしれない。それは、互いに。けれどそんなに綺麗なものを持っておいて、贅沢な奴だなとも思うわけだ。
「……綺麗、だろ。お前も」
いつもは黙っているところだった。けれど今日、まさに目の前で輝かれてしまえば、ほとんど無意識にそんな言葉が落っこちる。
「……えっ、あ、なにが、ですか?」
「目」
俺の至極短い返答を「め」と気の抜けた顔で繰り返すのが面白かった。それが七割。慣れないことを口に出して上がった心拍数のために、場を和ませたかったのが三割。だから俺は、小さく笑いを溢してしまった。
すると見越した通り、みるみるうちに眉間に皺が寄って。そのブラウンはきらめくのを嫌がるみたいに、じっとりと俺を捉えた。
「からかいましたね」
「違ぇよ」
「だって笑ったじゃないですか」
ちっとも痛くない緩いパンチを脇腹にお見舞いされながら、「勝手にそう思っとけ」と一言返す。「そうしまーす」なんて生意気な声色の返事を俺に投げつけながら、それでもそいつの瞳はよりいっそう輝いていた。一瞬くらい、騙されりゃいいのに。
#復活夢版深夜の真剣創作60分一本勝負
お題「瞳」
title by UNISON SQUARE GARDEN
ちょっっと気に入らないのですが、せっかく書いたのでこちらに失礼します……