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 12.囁く

ベッドの上に脱ぎ捨てられた夜会の正装を畳もうとして、服の間からばさりと冊子が床に落ちた。

「何これ…?」

拾い上げて見れば、表紙からしてアレな雑誌である。
好奇心にぺらぺら捲ると、官能小説やら裸体の女性絵やらいかにも男が好みそうなものが載っている。

しかも特殊な性癖向けの過激な内容ときた。

「こういうの、趣味ですか?」

ひらひらと冊子を振って際どい表紙を、夜会に出席している間に溜まった書類に目を通す背中に見せびらかす。

涼しい顔が振り向いた。

「ああ、これか…貰い物だよ。押し付けられたと言った方が正しいがね」

私の手から雑誌を取り上げた男は、猥褻な絵を興味深げに眺める。

このような雑誌は貴族が金にものを言わせ秘密裏に出版、売買していることが殆どで、まず一般市民が手にすることは出来ない。

大方酒席で支援者に話のネタにでも渡されたのだろう。

「一応聞きますが、処分します?」

彼が猥本をこそこそ集める嗜好の持ち主には見えない。
予想通り、高価な冊子はベッドに放り投げられた。

「ああ、こんなものをベッドに持ち込むより君を抱いている方がよっぽど興奮するからね」

言葉を発する前に唇は硬い胸元にぶつかる。
耳朶にかかる吐息が鼓膜を震わせた。

「その雑誌に浮気されたくなければ今夜は私の部屋に泊まってくれ」

呪縛の様に私を従わせる低音に、抵抗などできるはずもないのだった。







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