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 61.照れる

「あの…団長?」

さっきから団長がおかしい。
私の首元に鼻をよせて、まるでどこかの分隊長のようだ。

「なまえ、調理場にでも行ったか?」

「いいえ?」

脈絡のない質問に首を傾げる。
何が言いたいのだろうこの人は。
良い加減さらさらの金髪が頬を掠めて心臓に悪いから止めて欲しい。

「今日は外で演習した以外はこの部屋に貴方と缶詰です」

それは彼が一番知っている筈だが。
当たり障りない事実を答えれば、上司は納得したのかようやく顔を上げてくれる。

「ああ、分かった」

「何がです?」

「金木犀だな。良い匂いだ」

確かに演習していた庭に金木犀が咲いていた気がする。
恐らくその時香りが移ったのだろう。
ぽつりと呟いてまた首筋に鼻先を埋めてしまった団長に、私は立ち尽くすしか術を持たない。

「ちょ…団長!」

やんわり窘めても、彼は全く動じないどころか一層顔が近づく。

「…もう少し。好きなんだこの匂い」

「…庭で直接ご覧になっては」

せめてもの抵抗の台詞はあっという間に一蹴されてしまった。

「素晴らしい提案だが生憎そんな時間はなくてね」

「……そうですか。」

息が肌に触れるくすぐったさと羞恥にそう答えるのが精一杯だった。

私には金木犀よりも彼のほのかに香るコロンの方がよっぽど酔いそうだ。





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