62.舐める
「あ」
ついこぼした小さな声は上司に拾われた。
「どうした」
なまえは罰が悪そうに指をエルヴィンの前に差し出す。
「いえ、ちょっと指切っちゃって」
見れば確かに人差し指の先に血が滲んでいる。
「大丈夫か」
「平気ですよ。舐めとけば治ります」
書類の端で切った傷口は全く大したことはない。
「そうか」
他愛無い会話に引っ込めようとした手は太い指が絡め取った。
エルヴィンはそのまま血の粒が浮かぶ指先を躊躇いなく口に含む。
傷口を一吸いして手を解放すれば、血液に負けぬ程真っ赤な顔がそこにあった。
「な、だ、団長」
ぱくぱくと言葉を失う部下に満足して彼は書類にペンを走らせる。
「舐めておけば治るんだろう?」
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