魔法 全てを許す物語
何もかもを諦めた女性が生涯を終え、生まれ変わったお話。
かつて月を背負ったように孤独を纏って生きた女性は、一般階級の裕福でもそうでもない夫婦の娘として生を授かる。月並みの幸福を貰い、受け止め、返してきた彼女には前世の記憶を有していた。
何もかもを諦めた人生を知っていた彼女は自分が恥ずかしくて仕方がなかった。
だからそんな自分に悔いるように、前世の自分を消し去るようにして、今生の彼女は思い思いに生きる。生き生きと、若々しく、喜怒哀楽に長けて。
そして彼女は少年と出会う。
彼女は近所にある孤児院へ時折支援しに足を運んでいて、孤児院の子供達のお世話をしていた。そのためシスター達からは頼られていたし、子供達からも慕われていた。孤児院が彼女を必要としているように、彼女自身も傷を埋めるために孤児院を必要としていた。
だから彼女は何よりも自分の存在意義を求め、存在価値を求め、孤児院の問題事に首を突っ込む。
孤児院の問題事――つまりたった一人の少年のこと。
黒檀の髪に血のような赤い瞳と唇。冷たい印象の白い肌。かつて月を背負ったように孤独を纏っていた彼女のように、少年も月を背負い、孤独を纏っていた。
それでも今でこそ違うのは、彼女が太陽を背負っていること。彼女が諦めていないこと。幸せを求めていること。生きたいと望んでいること。
『力』ある少年は彼女を見下していたけれど、全てを許す姿勢を崩さない彼女に、到頭少年は両手を挙げて降参する。
『力』を行使することはよくないことだと説く彼女の教えに従う素振りを見せるものの、少年は彼女以外に興味を示すことなく成長していく。ゆっくりと、着実に。少年の内面は黒く染まる。
♂♀
ホグワーツに入学することになった少年を見送った彼女は、その後も孤児院の支援を続けた。少年が学生になった一年目も、二年目も、三年目も、彼女は齷齪働く。
少年が卒業するその年には彼女が婚約する。
その出来事を受け入れられなかった少年は癇癪を起こし、彼女の相手を速やかに葬り去った。彼女の婚約を取り決めた家族ごと。
流石に絶望せざるを得ない彼女ではあったけれど、少年の身になってみれば仕方のないことだったのだと自分に言い聞かせた。少年には自分だけが頼りだと、自分にだけ心を開けるのだと。だから自分が少年以外のものになれば、少年は足元から崩れてしまうのだと。あながち間違えてはいなかったけれど、彼女はもっと重要な部分に気付かなかった。
まあ要するに、リドル少年が夢主にべったりする話。そして夢主に執心するリドルが狂気に染まって、夢主を閉じ込めて夢主の分霊箱作ってやるとかいう展開になればいい。シリアス嬉しい。超美味しいです。
三人称仕様なのは私の趣味。
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