価値のある宝石が須く研磨されているのと同じように、人もまた、傷を負った者は美しい。大地の裂け目から覗くマグマの如く、雲の切れ間から覗く蒼穹の如く。
 しかしその時、その傷が当の本人を飲み込んでしまってはいけない。雨水を排する側溝の如く、事象の地平線の如く。
 数多の鮮血を吸い込んでも尚青くいられる彼女の軍服とその精神がひた隠しにする身体の傷を私は知っている。その傷のことを彼女本人が良く思っていないことは知っている。女性の身体だから、という世間一般が思いつくような理由ではない。ただ、思い出すのだろう、自身が傷を負うことを厭わず助けても助け切れない命があることを。あったことを。
 人は、少なくとも我々アメストリス軍は彼女を『我が国一の軍師』だと評する。その評価に値すると私もそう思う一方で、彼らは判っていないことを知る。彼女は思いの外利己的だ。しかも、簡単に言えば『自分勝手』という意味で。
 今だってそうなのだ。自身の権力をフルに使って私の国家資格の剥奪を阻止したことは序の口だった。仕事は放置してもいいから今年の査定をクリアしろと言いつけてから軍議に出て行った。
 まさか、私が仕事を放り出してまでレポートを作成しなければならない程の問題児だとは思ってはいないだろう。ただ、いくら彼女の権力行使により資格剥奪を免れたとは言え、審査自体は他より厳しいことは容易に予測できる。そうであれば気遣いではなく、命令なのだ。
「面倒見がいいのかなんなのか…わからないですね、ほんとに」
 作成途中のレポートの一部を指さして矛盾を指摘してくる姿に、軍師よりも教師がお似合いなのではないかと、ともすれば卑俗とも言えるような妄想が巡る。
 彼女の傷は美しい。だからこそ私を捕らえて離さないのだ。今も昔も。羽化をする蝶の如く、貞節を守る白頭鷲の如く。
とある国家資格者の雑記

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