尾形百之助と交際を始めてから、そろそろ半年が経つ。
 職場の上司だった尾形さんは、初めはとても怖かった。きっちりとスーツを着こなし、髪もしっかりスタイリングされていて、仕事はミス無くこなし、そして何より冷たい目をしていた。私が配属されたのは尾形さんと直接関わる部署ではなかったが、気付いたらちょっかいをかけられるようになった。
 私が失敗した会議とか、出来が酷くて怒られた資料の話とか、寝不足で出来た隈のこととか、やけに優しいと思えば「飯食いに行こう」とか。あの目と低い声に睨まれると、なんとも拒否を出来ず、相手をしてしまったのが運の尽きだった。
「いただきます!」
「はい、どうぞ。」
 しかし、運の尽きだった、と思っていたのはほんの暫くの間だった。
 どうも尾形さんは好きな子には意地悪をしたいタイプの男だったようで、最初にご飯を一緒に食べた日から1ヶ月後には交際が開始してしまった。
 付き合い始めたら、尾形さんは優しいし、作ってくれる料理は美味しいし、夜だって私を気遣ってくれる。人は見た目じゃない、って、どこか人事だと思っていたのに。
「この唐揚げ、美味しいです!」
「鶏じゃないけどな。」
「じゃあなんですか?」
「高野豆腐。」
「すごい!!!」
 あ、あと、見た目によらず尾形さんは菜食主義だ。脂身が苦手なんだそうで、食べられるものを突き詰めていった結果そうなったらしい。尾形さんと付き合い始めてから、3食全部尾形さんがご飯を作ってくれているから、今や私もそうなってしまった。たまにはお肉も食べたいなぁ、と思わないこともないけれど、そんなとき尾形さんは見透かしたようにこうやってお肉料理もどきを作ってくれる。それだけで満足してしまうのだから私も単純な女だと思う。
「尾形さんのご飯のおかげで、ここ半年ずっと肌の調子もいいし、いいかんじに痩せたし、ほんとに有難いです。」
「まあ俺はもう少し肉付きのいい女の方が好きだがな。」
「えー!!」
 口の端を吊り上げて尾形さんは笑う。あ、今のはジョークか。尾形さんの冗談はわかりづらくて良くない。
 拗ねた私は誤魔化すようにテレビを付けた。夜7時のバラエティでは健康特集をしていた。
「人間の身体は半年前に食べたもので出来ている」んだそうだ。
今日も尾形さんのご飯は、美味しい。
そこに「 」はあったか

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