随分とおかしな女性だと思ったのが第一印象。
 やはりおかしな女性だと思ったのが次の印象。
 そしてその印象は、今もなお残っている現状。
「女性というより、見た目はまだ少女ですけどねぇ」
 彼女の母は東の国出身だと聞いた。幼い頃に移民としてアメストリスに来たのち、軍に入隊、そしてそこで夫となる男性と出会い、彼女、苗字名前が産まれた。そのように本人から聞いたのは、彼女の隊に入って割とすぐのことだった。
 年の割に幼く見えるのも、その血筋のせいだと顔を顰めて話していたのを思いだす。その表情すら何せ幼くて、笑いの堪え方を忘れてしまったことまで思い出してしまい、暫し頭を抱えた。
 そうは言っても、その才覚によって若くして准将の地位を手にした彼女は、どうしたとしても「天才」だと実感する。争いごとは苦手だと泣き言を言って私を困らせるくせに、会議に出席すれば大総統相手だろうがなんだろうが気が済むまで吠える。己の意に沿わぬ結論以外は如何なる方法を用いてでも矯正させる。何が「争いごとは苦手」だ、後になって文句を言われるのは私だというのに。
 そんなこと気にもとめずにぎゃんぎゃんと騒がしい声が近づいてくる。会議は終わったようだ。もちろん、彼女を苛立たせる結果で、だ。
「おいキンブリー、あのクソ中将の首を挿げ替えたい!今すぐ奴の執務室を爆破してこい!」
「無茶を言わないでください。日頃散々私に苦言を呈しているのはどの口ですか」
 フロア一帯に響き渡る音をたてて扉を開き帰還した我が上官は、メモだらけとなった報告書と地図を私にぶん投げる。そんな大声で質の悪い暴言を吐く彼女が国で一番の「軍師」だと誰がわかるだろうか。
「今日だけは許す」
「心にもないことは言わないことですよ」
 端正な字で書き込まれた書類には所々「クソ中将」殿には見せられない単語も見受けられたが、どうせ私か書いた本人にしか知り得ない。
 私にコレを投げつけてきたということは、既に必要なくなった書類だ。念のため証拠は隠滅しておこう。冴え渡る閃光は一瞬、山のような書類が花火となり散った。
 どうも美しくはなかった。
 兵法に長けた准将ではあるが、私の美学には興味がまるでない。今だって革張りのソファにふんぞり返り、ぶつぶつと今日の会議の気にくわなかった点を片っ端から挙げているだけ。
 しかしその横顔はぞっとするほど美しい。
 あの顔を掴み、そのまま爆発させてしまえたらどんなに気持ちのよいことか、と、数度考えたことがある。あの曇りのない黒い瞳に私を映したまま、あの小さくて未熟な口から吐き出される息を私に与えながら、他の誰とも代わり映えしない朱を散らす姿を夢想する。するとどうだろう、どうしようもない気持ちが芽生える。初めて錬金術でモノを壊したとき、人を殺したとき、ああ、それらが醜くちっぽけに思える程、身体の中心が興奮する。
 なんだって、数歳も年下の彼女に、しかも上官にこんな劣情を抱くのか。異端だなんだと言われることには納得済みの人生に、ひとかけらの破片を投じるような存在。
「キンブリー、今晩、レディとデートの約束は入っているか」
「入っています、と答えたらどうされるんです?」
「断れ。私の奢りだ、呑みに行くぞ」
 そうだ、そうやって私にNoを言わせない貴女が好きだ。おかしくなんてない、生に貪欲で、性など知らない貴女の横に、こんな卑しい私を据えるその精神。
 いつだっていい。そう、いつか。
殺されてみたい

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