Twitter
#合成樹

* * * 

西の風が吹いた日のことだった。



「Wow!!これはすごい!」
「私からすれば貴女の方が“すごい”ですが…。」
とある若き錬金術師の男の掌の上では、依然として錬成反応が起こっている。どうやら空気と、そこに浮遊する塵が爆ぜているようであった。
しかし男の言う通り、この国において錬金術自体はそう珍しくない。重宝されるのは事実ではあるが。つまりは男の言うように、彼の目の前で錬成反応に目をまん丸にして手を叩く少女の特性の方が、余程珍しいものであった。
「生まれたときから、こうなんだから仕方ないよねぇ。」
にこにこ、と笑う側から、彼女の口からは薄桃色の花弁が溢れてくる。ヒトは酸素を得て二酸化炭素を吐き出す、という常識を目の前で覆す少女はヒトではないことを、錬金術師 ゾルフ・J・キンブリーは既に理解していた。
理解はしていたが、とめどなく溢れてくる花弁があまりに美しくて、目を離せなかったのだ。
「君はなんでこんなとこにいるの?」
「なんででしょう。」
「私が聞いてるのに。」
「貴女は、なぜここに?」
「私は、ずっとここに居るよ。」
ここ、とは、どこだ。キンブリーは暫く考えたが、微睡みの中にいるかのような霞のかかった脳では、答えが出そうにはなかった。豊かな緑と、淀みのない青い空、暖かな空気。自分はどこの公園に来てしまったのだろうか。それすらも、もうわかったものではなかった。
花弁混じりの言葉を半濁しているキンブリーを邪魔するかのように、少女は自身の口から溢れた薄桃色を両手で掬い、彼の頭から降らせた。
「何するんです。」
「これは餞別。」
「餞別?」
少女はキンブリーの問いかけには答えず微笑んだ。
「私の口から溢れる花は、沢山を吸い取って咲くの。土の栄養、人の命、魂、愛、温もり、その他沢山。」
「貴女は、もしかして、」
「きっとこれから沢山を奪う君と一緒。ふふっ。楽しみね。次に会う時が、最後よ。」
軽やかな笑い声と視界をかき消すほどの花弁を残して、彼女は消えた。




そんな夢のような出来事をキンブリーは思い出していた。いや、あれはまさしく夢だったのだと思っている。そしてそれを思い出しているこれこそが、ああ、走馬灯というやつだ、と少ししてから気づいた。
思うように息ができず、頭はガンガンと熱いのに、そこより下は世界の果てのような冷たさを感じている。
目を閉じて、幻術とも奇術とも見分けのつかなかった少女の花を思い出す。思い瞼を開けば、まさにその少女が、あの日の姿のまま地に伏せたキンブリーを覗き込んでいた。
「言ったでしょう、次に会うときが、最期だって。」
悪くない最期だと、口の端を釣り上げた。それにつられて少女は、あの日と何も変わらぬ笑い声をあげた。あの日よりも溺れるくらいの花弁を撒き散らして。
異国の地で美しく咲く花の海を遺して2人が居なくなったのは、西の風が吹いた日のことだった。
フローラの花葬

back

top

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -