「会って欲しい奴が居る」と久しくやりとりをしていなかった旧友、オリヴィエ・ミラ・アームストロングから手紙が送られてきたのは一昨日のことだった。彼女が任されてる北での騒動は既に私の耳にも入っており、軍の回線や伝令を使わずに手紙を寄越したということから私をも巻き込もうとしていることは明白。手紙にはリゼンブールから始まる住所が書かれており、あぁこれは間違いな、と思った。



「あんたが、苗字名前少将……」
「鋼の錬金術師殿に謁見できるとは光栄だね。」
 表沙汰にしたくない面会であることを察し軍服は着ず、いざリゼンブールに赴けば待っていたのは渦中の少年だった。幼馴染みだという機械鎧技師の少女に、異国の少年、数名の軍人。いやはや、私服で来てよかった。
「君たちも時間に余裕が有るというわけではなさそうだし、手短に話そうじゃないか」
「お気遣い感謝するぜ、少将…俺があんたに頼みたいのは、軍の上層部で信用できる人間を判別する、ってことだ」
 意志の強そうな金色の瞳が私を射貫く。揺らぐことのないその視線から導き出される答えは、あまりに簡単で明快なものだ。国家転覆なんて生易しいものではない。時限爆弾に国家が据えられたようなものだ。なんという泥船に乗せてくれたんだ、とオリヴィエを恨んでももう遅い。ここに来たことは紛れもなく私自身の意思なのだから。
「それは一向に構わないがね、エドワード君。軍の上層部に信用できない人間がいる、と暗に示しながら、手の内を明かさずに話を続けようとするのはあまりに無礼ではないか?北壁からの頼みとは言えど、そこの礼儀を欠かせるつもりはない」
「……っ、」
 この程度の詰め寄りで渋い表情を浮かべるあたり、まだまだ幼いのだ。頭は良いのだから賢く振る舞え、と言われた夜を思い出す。もしかしたらあの頃の私は、今の彼、エドワード・エルリックのように見えていたのだろうか。
 さて、どう答えたところで彼の助けにはなってやるつもりではあるものの、やはり情報というのは宝だ。情報を持っている者は強い。
「話さないのなら私から話そうか。そこに居る異国の少年、彼は人造人間だな。以前、訳あって人造人間と付き合いがあったが、そいつと同じ気配を持っている。あとそこのガタイのいい2人は純粋な人間ではない。おおよそ軍の合成獣実験に付き合わされたのだろう。そしてウィンリィ嬢の横にいる2人はブリッグズ兵だな、銃が北方仕様だ。まだ、足りんか。」
「エド、やっぱりちゃんと話しておいた方がいいわよ。」
「…おう。」
 あまり軍師を舐めるな、という牽制が効いたのか、それとも幼馴染みの忠告が効いたのか、さすがの私もそれは分かりはしなかったが、エドワードは口を開いた。



「なるほどな。上層部どころか、てっぺんが真っ黒とは」
「悪い。今まで全く関わりのなかった苗字少将を、こんな風に巻き込んじまって」
 大総統閣下とそのご子息が人造人間、か。閣下とは幾度となく対面したことがあるが、人間を元にして造られた人造人間であるから気配で読み取れはしなかったということだ。ご子息・セリムに関しては会ったことがないわけではないが、あのような幼い姿形に対して警戒心を持つことはなかった。何事にも疑いは持ってかからねばならないことを再認識する。
 そしてキンブリー。どうやら人造人間側についているらしい。出所したとは聞いていたし、今更日の当たる世界で生きていけるような性癖でもない。まったく、何を考えているのか。
「いや、構わん。私を信用してくれたことを嬉しく思うよ」
 キンブリーの上官であった過去を踏まえた上で、彼の言う「信用のできない上層部」に私が属していないという判断に至ったこと。オリヴィエの判断も介入しているだろうが、まだ少し青くて甘い彼の思考は、嫌いではないと思えた。
「では、私は君たちの敵に取り込まれぬように情報操作と攪乱でも行えば良いかな」
「あぁ、最終的に中央でドンパチするのは避けられねぇと思うから、頼む」
 イシュヴァール殲滅戦以来ますます争いごとを起こさぬように尽力してきたつもりだったが、結局の所またこうやって戦いに身を投じることになった。そんな私をキンブリーが見たらどう思うだろうか。次に相対するときはきっと敵だ。あぁ、でもそれはそれで楽しみだ。
「…少将殿、なんか楽しそうじゃねーか」
 リン、と名乗っていたシン国の皇子の中には、確かに強欲の名を冠する人造人間がいるらしい。なら彼にも分かることだろう。
「エルリック兄弟が元の身体を、君の“本体”が玉座のために賢者の石を求めるように、私にも欲しいものがある」
「地位も名誉も頭脳もあるあんたが、他にまだ欲しいものがあんのか。そりゃあいい!」
 強欲が大口を開けて笑った。約束の日は近い。
愛情を殺意で塗り固めて

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