「助けてもらっておいてこう言うのもなんだが、やりすぎだ」
「貴女が少しも抵抗を見せないものですから」
 やりすぎと私を窘める割には、「あーあ、どうするんだよコレ」と顔を顰める准将も大概だと思う。先程までは人間だった、足下の塊を「コレ」と呼ぶのはやはり私の上官殿だ。
「おいたが過ぎる子には、まず言い聞かせなければ」
「ほぉ、苗字家はそういう教育方針でしたか」
「……それは、どうだったかなぁ」
 准将が軍靴で蹴りを入れたソレは、鈍い音を立てて朱を散らす。あまり冷静でなかったとは言えど、あまりに美しくなかった。肉塊が残るなど。しかし、欠片も遺さず爆破するには准将との距離が近すぎたのだ。普段なら気にすることでもないが、標的の至近距離に彼女が居ることで、己の中に多少の人間らしい情が覗くのがむず痒い。
 さて、と呟いて心なしか乱れた軍服を正す。生きていようと死んでいようと、元を正せば物質なのだから、元の姿へと還すのはさほど難しいことではない。生きるために人を殺すのを避けている彼女は、代わりに私へ「殺すこと」を命じる。故に、彼女の下で働くことになってから、今日と同じような事に巻き込まれたことは既に数えきれるものではない。慣れたものだ、後処理にも。
 そして、跡形もなくなった「軍曹」に一瞥もくれてやることなく、我々は執務室へと踵を返す。
「ご自分の地位を考えて、もう少し身を守ることをして頂けませんか。私の胃がそろそろちぎれそうです」
「よく言う。煌々とした顔で飛び込んできたくせに」
 人を爆破することに喜びを覚えたことを否定するつもりはない。しかし、私のデスクに「お熱いお呼び出しがかかったので行ってくる」とだけ書かれたメモを見つけたときに、背中を伝った寒気を知らないから、彼女はそんなことを言えるのだ。若くして准将となった彼女に妬み嫉みを抱く者は多い。上からも下からも。彼女が下した判断で命を落とした者、その家族、その地域。そんな「負」を狭い背中に背負うどころか、わざわざ両腕に抱えている。柄にもなく、心配してしまうのも無理はないと自身を擁護する。
「牙を持たないわけではないでしょうに」
「牙で喰らいつけば血の味がするだろう。それは、旨くないからな」
「私はたまに、貴女のような人がよく軍人を続けていられるものだと感心しますよ」
「そうかな。私は最近、私を見限った両親の心情もわかるようになったよ。軍人になりたくてなったわけではないから、今の私は首の皮1枚で国軍にぶら下がっているだけ」
 ひやりと冷たい廊下に准将の軍服が翻り、沈みかけの夕日が交差した。いつか同じ色に染まった彼女を見てみたい。叶うことなら私の手で。
 しかし「ぶら下がっていられるのもお前のお陰だよ」と笑った准将の顔が、年相応の笑い顔だったので、今はそれだけでも良いかと思えた。非常に酔狂な話だ。
脆弱性を持つ腑

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