捧げ物 | ナノ


わがまま破壊神

骨ばっているけれど意外とがっしりしている肩をそっと揺すると、大きなお耳が動いた。

「お目覚めですか?ビルス様」
「んー…まだ…もうちょっと…」
「もう…ウイス様がお待ちですよ」
「待たせときゃいいよ…僕にはこの時間の方が大事だもん」

むっくりと起き上がったと思えば寝惚け顔が胸元に飛び込んできた。
一瞬強張ってしまったけれど、何度かやられていることなのでいつも通り受け入れる。
こう来たら頭を撫でてあげないと、いつまでたっても離れてくれないのだ。

「…ん?」

僅かに鼻の音が聞こえると、見馴れた寝ぼけ顔が目の前に現れた。
少し機嫌が悪いような…変だな、撫で方は変じゃなかった筈なんだけど…

「…んー」
「わ」

どうしましたか、と問う前に頬に頬擦りされた。
びっくりして固まっていると、体のあちこちに頭を擦り付けられる。
…甘えているんだろうか。
そう考えたら目の前の大きな紫色の猫様がひどく可愛らしく見えてきた。

「サユリさぁ…何かすっぱい果物食べたでしょ」
「え?あぁ…ミンタの実を2つほど」

匂いがついていたのかしら。
実を食べていたときに丁度ウイスさんが私を呼びに来たものだから、手を洗う暇がなかったのだ。

「僕その臭い嫌いなんだよね…体に悪そうなんだもん」
「そうでしたか…申し訳ありません」

文句を垂れながらもビルス様はぐりぐりと頭を押し付けてくる。
嫌いな匂いなら普通は離れていくものだと思うけれど。
それにこれではビルス様にもミンタの匂いがついてしまうだろうと、ひとつ問いかけてみることにした。

「ビルス様…先程からどうしたんです?匂いがついてしまいますよ?」
「いいんだよ、つけてるんだから」
「…???ミンタの実はお嫌いだと…」
「だから僕の匂いをつけて消してるんじゃないか。サユリは僕のだってわかりやすいし一石二鳥だろ?」
「は、はぁ…」

甘えてるんじゃなくて、匂いをつけているらしい。
されるがまま、すりすりされるがままでいると、腰の方へと細い腕が伸びてきた。

「良いこと思いついた」

くすぐるように動く指に嫌な予感。
一旦離れようと動いたときにはもう遅く、私の背中にはふかふかした寝床のシーツ、目の前には猫様のしたり顔。

「い、いけませんビルス様、こういうのはもっと時と場所をお考えになって…」
「ここは寝る所だよ?それにいきなり始まるのもいいじゃないかぁ、その変な臭いは取れるし、寝起きの運動にもなるし、誰が怒るわけでもないだろ?」
「私が怒りますよ」
「……」

横を向けば口だけ微笑んだウイス様。
ど、どこから聞かれていたんだろう……

「ケチ。ちょっとくらいいいじゃないか」
「いけません。今はお風呂に入っていただくのが先です。だいたい自分を起こしたかったらサユリさんを連れてこいと仰ったのはビルス様でしょう?これ以上ぐずぐずせずにさっさと起きて、ご飯を召し上がってください。下準備もしてしまったんですから」
「ちぇ、わかったよ。……サユリも一緒に入る?背中流してほしいなぁ」
「えっ」
「これ以上のセクハラは神として問題ですよ。いい加減にしてください」


ビルス様がお風呂に入っている間、私はキッチンでウイス様のお料理する様子を見ていた。
お手伝いしようとしたのだけれど、どれも食材の扱いが難しいので、と用意してもらった椅子に座らされてしまったのだ。
次々と大皿の料理を盛っていくウイス様に、ふとした疑問を投げ掛けてみた。

「ウイスさん」
「なんでしょ?」
「ビルス様は果物がお嫌いなのですか?」
「果物、というよりは…柑橘類が苦手のようですねぇ。酸っぱい匂いは毒だと本能で考えるそうで」
「なるほど」
「まぁ、マーキングの口実にもしたかったんでしょうがね」
「ま…」

そうか、あれはマーキングだったんだ。
匂いをつけて自分の所有物だとわからせるための…と考えて、なんだか恥ずかしくなった。

いつの間にか調理を終えたウイス様は、大きな杖を振って数々のお料理をテーブルへと移動させていく。
あとは彼の主がお風呂から戻ってくるのを待つのみ。

「お料理が冷める前に来てほしいんですけどね。…そうだ」

閃いた様子のウイス様に首を傾げる。すると、

「えいっ」
「ひゃ、…!?」

何が起こったのか、私の視界はさっきまで向き合っていた人の服の色でいっぱいになっていて、背中には細い腕が回っている。
抱きしめられている、と把握したところで、ぎゅうぎゅうと体を押し付けられる。

「う、ウイス様!?」
「お風呂から出てくるのが遅いペナルティということにしましょ。面白い反応が見られるといいんですが」
「???」

わけがわからないで固まっていたら、あっさりと解放された。
少し見上げればウイス様の満面の笑み。

「ウイ…」
「二人とも何してるの?」

振り向けばバスローブ姿のビルス様。大きなお耳は白いバンドでまとめられている。

「いいえなにも。ビルス様を待ってたんですよ。さ、早いところ食べてください」
「はいはい…サユリ、こっちきて」
「?はい」

椅子に腰かけて手招きするビルス様のもとへ小走りで駆け寄る。
そしてフォークを手渡された。
これもよくやらされる。

「食べさせてよ。あーん」
「…何をお取りしましょうか?」
「じゃあそこの大きな肉、…?」
「ビルス様?」

大口を開けていた猫様は、突然しきりに鼻を利かせると、私の腕を引き寄せて顔をうずめてきた。

「ひゃあ!?」
「……………ウイス〜〜〜」
「はい、なんでしょ?」
「サユリに何かしただろう…ウイスの匂いがするんだけど?」
「あぁ、そう言われればビルス様がお風呂から上がるのが遅いので、何かしちゃったかもしれませんねぇ」
「ビルス様!ただ抱擁されただけですから…」
「………”ただ”?」

ビルス様の鋭い眼光が向けられる。
怖い…

「君は自分の立場がまだわかってないみたいだねぇ…ウイス、ちょっともう一回お風呂入ってくる」
「は、え、あの…」

ビルス様は私の手を掴んで立ち上がった。

「ダメです。朝食を済ませてからにしてください」
「……」

と思いきや座り直す。素直に聞いてくれるらしい。
けれど、このあとが楽しみだねぇなんて言いながら朝ごはんを頬張るビルス様に、何をされるのだろうと冷や汗が止まらなかった。








パワハラビルス様。

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