捧げ物 | ナノ


雪の上の賭け

石でできた重々しく長い机を中心に、7人が向かい合って座っている。
それぞれが視線をさまよわせたり、他のメンバーを観察したり、けれども誰として自分の声を発することは無い。
個性的で色とりどりな面子が静かに座っている様というのはなんだか奇妙だ。

しばらくして部屋の奥から大きな足音が近付き、我らが大魔王さまが姿を現した。
大魔王であるクッパ様は既に席に着いたメンバーを見回し、満足そうに頷いてから、長い机の上座へと腰を下ろす。
その隣で静かに腰を下ろしたのはカメックババ様だ。

「全員揃っているな。ではミーティングを始めるのだ」
「まず各々の状況を報告してもらおうかの。ノコブロスはどうぢゃ?」

ノコブロスと呼ばれた、赤いバンダナをマスクにしたノコノコが元気よく答える。

「ハイ!我らのとりでの仕掛けは準備バッチリ、部下も全員配置済みでございます!」

我ら、ということはほかにもメンバーがいるのだろう。
複数で構えるのは悪いことじゃない。…単数のほうが良いこともあるが。

「結構。ではカーメンはどうぢゃ」

カーメンと呼ばれた暗そうなカメックが答える。

「こちらも準備は万全、ただワンワンちゃんがモゴモゴ…」
「何、ワンワンがどうしたのだ?」

ワンワンを手懐けることに長けたクッパ様がカメックババ様に続いて質問した。
カーメンは言い難そうに答える。

「あまり懐いていないようで…言うことは聞いてくれる、のですがその…噛み付かれそうになるのが少々…」
「それはお前の愛情が足りないのだ!ちゃんと心をこめて接すればワンワンは答えてくれるのだ!」
「は、はぁ…」

実はワンワンたちがクッパ様に懐くのは、クッパ様に彼らの気持ちをかなり正確に読み取るという特別な力があるから、というのは黙っておこう…

「よいかな、次はドガボンぢゃ」

ドガボンと呼ばれた巨体は嬉しそうに答える。
このあたりでわかるかもしれないが、私達はこれが初対面なのだ。
侵略中はそれぞれが自分のエリアに集中しなければならないし、他のエリアの事を下手に知っていると情報を漏らしてしまう可能性がある。

「オラはなんにもないけど、クッパさまがスターの杖を手に入れたら不死身にしてもらうんだぞう〜楽しみだぞう〜」
「む?クッパ軍が向かったはずぢゃが」
「あぁ、そういわれればオラのお城にいっぱい来たぞう」
「もう少し具体的な報告をしてほしいものぢゃが…まぁ問題はなさそうぢゃの」
「なんだが心配だぞ…スターのせいを逃がしたりすると承知しないからな!」
「わかったぞう〜」

ドガボンの気の抜けた返事を聞くと、クッパ様は全員に向けて言った。

「わかっておるとは思うが、杖を奪った後にそれぞれの場所へ星のせいを捕らえる予定だ。しくじるのではないぞ!」

この場に居る全員が力強く頷く。

「うむ、次に将軍ヘイホーぢゃ」
「こっちはあとヘイホー達をキノコタウンに向かわせるだけなのよん!」
「おお、それはすぐに実行できそうかの?」
「ちょっとわからないよん〜。大切な戦車のメンテナンスに時間がかかっちゃって、こっちが終わり次第ってところなのよん」
「うむ、それなら心配はなさそうなのだ」

「次はファイアパックンぢゃな」

私の番。
本当はこの場に居るような身分ではないからか、緊張してしまって顔が強張る。

「…彼は根を張ってしまって大きな移動は出来ないため、私が代理として答えさせていただきます」
「そうぢゃったな。ではサユリ、頼むぞ」
「はい。火山の軍団員は全員到着しており、パックンフラワーも十分育ちました。ジャングルも問題無しです。ですが…」
「どうしたのだ?」

ミーティングの場といえど、クッパ様に声をかけられると舞い上がってしまう自分が居て、急いで抑えつけた。

「ファイアパックンが、近々火山が噴火しそうだと言っておりました。ですのでマリオが来る前に噴火しそうになった場合、軍団員全員の一時退却を許可していただきたいのです」
「何、それは危ないな…よし、許可するのだ」
「ありがとうございます」

言うことはすべて言えた。
ほとんど脱力するようにして背もたれに背を預けた。

「次はオズモーンぢゃ」
「おっほん、こちらはクモクモマシーンで空が雲に覆われたでゴワス。太陽の奴もすっかり元気をなくしたようで、いい気味でゴワス」
「ふむ、問題はないんぢゃな?」
「無いでゴワス。部下も不足なく配置済みでゴワス」

「よろしい。最後にパラレラーぢゃ」
「こちらも侵略は済んでおり、部下も配置済み…ただ、極寒の地のためモンスターが少なく、私の配下とスカウトしたモンスターだけでは心もとないという状況です」
「うむ…しかしわが軍には寒さに強い者が少ないからな…誰か部下を貸せそうな者はおらんか?」

クッパ様が声をかけるも、皆思い当たらないようでうんうん唸るだけだった。
しかし、私の中でアイデアが浮かんで手を上げると、全員が私へ視線を向ける。

「あの…私の管理下に氷のパックンフラワーがいるので、その子達を植えるのはいかがでしょう」

集中する視線のせいで声量が控えめになってしまった私の発言に、カメックババ様がほうと声を上げた。

「しかし成長するのに時間がかかってしまいそうぢゃが」
「その点は問題ありません。彼らは寒ければ寒いほど早く成長しますので、マリオが来る頃にはしっかり花咲かせるかと」
「なるほど。サユリの案で心配な点はないか、パラレラーよ」
「…いえ」
「よし、ではサユリよ、ミーティングが終わったらパラレラーのエリアに行って種を植えてくるのだ。頼んだぞ」
「はい!」
「…お言葉ですが」
「なんだ?」

氷の王冠と、王を思わせる冷たそうな服の間で浮かんでいる黄色い目がどこか不服そうに歪められていた。

「種を植えるだけならば、それを渡してくれるだけで十分なのでは?」

この人は何もわかっていない。
つい溜息をつきそうになったところで、クッパ様が発言なされた。

「…パラレラーよ、パックンフラワーを育てたことはあるのか?」
「いいえ、ありません」
「パックンフラワーは素人が育てられる植物ではないのだ。何も知らんお前が植えても戦力にはならんぞ!
あれはワガハイですら育てるのが難しいのだ」
「そうですか…」

クッパ様が私の代弁をしてくださった…
思わず驚きと嬉しさで呆けてしまい、ミーティングが次の議題に入ったことにしばらく気付かなかった。

………

ミーティングを終え、早速私達はサイハテの地に来たのだが。
思ってたよりも気温が低くて、かなり着こんでもまだ寒く、歯がカチカチと鳴ってしまう。

「これだけ寒ければ期待できます…」
「フン、下っ端の癖して出しゃばるな」
「…」

軍に所属する人が皆人格者だとは思っていないけど。
そうかこの人はそういう人かと思うと心のどこかが冷めてきた。
さっさと終わらせて戻ったほうが良いだろう。
無言で自分に防御魔法をかけてから作業に取り掛かる。

アイスパックンの種を一つ取り出して雪の中に埋め、優しく氷の魔法をかけて成長を促す。
するとたちまち種が成長して、なんとプチパックンの段階を通り越して立派なアイスパックンの花が咲いた。
この環境はこの子達に最適なようだ。
喜ばしい気持ちで今しがた成長した子を撫でてやると、一瞬驚いたようだったがすぐに大人しく撫でられてくれた。

「なんだ、やはり大したことないではないか」

折角温まった心をまたもや冷ましてくるこいつはある意味この極寒の地にふさわしいのかもしれない。
ここはひとつ、ちょっと悔しがらせてやりたいところ。

「…ならば一つ、植えてみますか?」
「フン」

鼻で笑って受け取ったな。
この子達を育てる難しさ、思い知るがいい。

種を埋めて、魔法をかける。しかし何も起こらない。
やっぱりね。

「魔法が強すぎます。彼らを育てるには適した強さの魔法で促してあげなければなりません」
「チッ…」
「それに心もこもっていないようですね。攻撃の魔法なら何も考えなくたってできますが、変化を与える魔法は術者の感情が何より重要というのは私達カメックでは常識の範疇ですが」
「…」
「わかったら下を馬鹿にするような発言は控えることです」

いい気味だ。
胸をすっとさせてからパラレラーが駄目にしてしまった種を魔法で治癒してから成長させると、生えてきたパックンが擦り寄ってきた。
枯らされそうになるなんて可哀想に…
慰めるように撫でているとパラレラーが声をかけてきた。

「ただのカメックだと思っていたが、貴様なかなかできるようだな」
「それはどうも」
「サユリと言ったか、私直属の部下になれ」

はぁ?

間抜けな声が出そうになるのをなんとか押し込めた。

「お断りします」
「何故だ」
「私が仕えるのはクッパ様だけですので」

パラレラーを見ずに作業を進める。

「クッパ様に仕えると言っても要するに下の下だろう?幹部である私の下についたほうが美味しい思いができるぞ」

何が悲しくてこんな嫌な上司を持たなければならないんだ。

「結構です。現状に満足していますから」
「強情な女だ」
「貴方は驚くほど傲慢ですね」

おっと、つい口に出てしまった。
機嫌を損ねていたら面倒だな…と考えながらパックン達を増やしていく。

「よし、では傲慢ついでに賭けをしよう」
「賭け?」
「この作戦でマリオが敗れたら私直属の部下になれ」

はぁぁぁ?

「この作戦、ということは貴方がマリオを直接倒さなくても、ということですか?」
「そうだ…いや、他の連中など当てにならんだろう。私がマリオを倒したらでどうだ」
「…」

この人、どこまでしつこいんだろう。

「貴方だけというのは不公平なので私も賭けて良いですか」
「そうだな…よし、何だ」
「私の管理しているファイアパックンがマリオを倒したら、私にその傲慢な態度を二度と見せないでください」
「いいだろう」

ずいぶんすんなり受け入れてくれた。
どうやら手柄を立てる自信満々なようで…でも私の育てたファイアパックンが負けると言うことは、もうマリオに勝利できるのはクッパ様しか居ないという事。

面倒な奴に我慢するのもこの作戦が終わるまでと思っていたけど、その時はだいぶ早く訪れそうだと、内心ほくそ笑んだ。


〜〜〜〜

「夢主さんとパラレラーさんの馴れ初めの話を読んでみたいです」とのリクエストで書かせていただきました!

書いてて思ったんですが、パラレラー嫌なやつですね〜w

第一印象は最悪といったところですが、これが覆るのはいつになることやら…


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