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シロイルカさんと深海魚


 閉館後の丑三ッ刻水族館内。
 清掃や会議などの仕事も終わり、自室へ向かうベルは、魚たちがいなくなった水槽の前に、サカマタがじっと立っているのを見つけた。ポケットに両手を突っこみ、何をするでもなくそこにいる彼は、ベルが近寄っていっても言葉をかけてくるでもなく、じっと彼女を見つめるばかり。様子がおかしいことに気付いたベルはサカマタに声をかけようとするが、それより早く別の存在がサカマタに話しかけた。一万メートルの深海から響いてくるような、苛立ち紛れの静かな声。丑三ッ時水族館の館長、伊佐奈の声である。

「シャチ、イルカ、深海魚を見なかったか」
「わ、わたしは見てません。サカマタさんは?」

 強烈なプレッシャーを分散させるべく、サカマタに話をふってみても、やはり彼は言葉を発さず、首を横に振るだけ。シャチにあるのかどうかは分からないが、喉を痛めているのだろうか? 相変わらず“深海魚”の行方は分からず、伊佐奈は小さく舌打ちして顔を顰め、二人の前を去った。機嫌の悪い館長を前にすると、心臓が締め付けられるようで、体に悪い。サカマタに話しかけようと顔を上げたベルは、言葉を発しようとして唖然とする。何故なら、

「いった、イサナ?」
「行った」
「えっ……#name3#ちゃん?」

 大きく開かれたサカマタの口の中から、館長が捜す“深海魚”が現れたからだ。
 ぐるりとでんぐり返りながらサカマタの前に下りる“深海魚”は、通路の奥の角に館長が消えるのを確認してから、裸足でぺちぺちと音を立てながら、館長が歩いていったのとは反対側へ走っていった。あとには、ベルとサカマタ、黙々と与えられた役割をこなしていく魚たちが残される。“深海魚”をずっと匿っていたために違和感、あるいはゴミが残っているのか、サカマタは口をもぐもぐさせている。

「どうしたんですか?」
「……#name3#の髪の毛が……まだ口内に残っているらしい」
「あらら……」

 髪の毛は口の中に入ってしまうと取りにくい。口の中に入ることはあまりないが、一度入ると記憶に残る嫌さだ。口の中に手を入れて指で探ってみたり、舌で押し出そうとしたりしているサカマタを見て、ベルはなんとか助けてあげられないかと思い、提案してみる。

「わたしが中を見てみましょうか?」

 サカマタは怪訝そうな顔でベルを見つめた。といっても、あの四つの目は開いていない。目に見える白い模様が顰められているだけだ。しばらく沈黙が二人の間を繋いでいたが、ふいとベルから顔を逸らして、呟くようにぽつりと言った。

「……でら奇策」
「そ、そうかもしれませんけど! でも気になるんでしょう?」
「それはそうだが」
「じゃあほら、口を開いてください」
「本気か?」
「本気ですよ。サカマタさんだって、髪の毛入ったままなのは嫌じゃありませんか?」
「……」

 噛む時以外で口の中に誰かを入れるのは抵抗があるのか、サカマタはしばらく考えこんでいた。しかし髪の毛の異物感は、海の支配者をも平伏させてしまうもの……であるらしい。無言のままにサカマタがベルの前へ膝をつき、ぐわっと口を開いてみせる。一口で呑みこまれてしまいそうなほど大きい口の中には、小さくも鋭い牙がずらりと等間隔に並んでいた。

「頼む」
「はい! がんばります!」

 嬉そうに笑みを浮かべたベルは、開かれたサカマタの口の中へ上半身をゆっくりともぐりこませた。潮の匂いがする。それにあたたかい。噛まないようにと気を遣ってくれているのか、口の端が微かに震えている。サカマタの密かな頑張りにくすりと笑い、髪の毛を探し始めた。舌に指をそっと当てながら、感覚で探ってみる。暗いので、視覚に頼りにくい。手袋を外して触ってみると、唾液が指の先についた。どきりとする。……何を考えているんだ! 頭を振った。早くしないとサカマタの顎が痺れてしまう。微かだった震えは少しだけ大きくなったように見えた。
 指先に感じる僅かな違和感。#name3#の髪の毛だ。一本だけだが、かなり長い。腰の辺りまで伸びる髪だから当然か。舌の上にある髪の毛は、いつも以上に取りにくい。人さし指と親指でもって髪の毛をつまむと、後ろから高い声が飛んできた。

「サカマタ! だめ! ベル、たべないの!」
「えっ?!」
「がっ!」
「あ! ごめんなさい!!」

 突然聞こえて来た声に思わず頭を上げてしまい、サカマタの上顎に思いきり後頭部をぶつけてしまった。髪の毛を落とさないように注意しつつ、サカマタの口内から急いで出ると、我慢の限界だというふうにサカマタは口を閉じた。白い模様がしかめられているのは、気のせいではないだろう。まったく、一帯誰が? 振り返ると、そこには先程どこかへ去っていった“深海魚”がいた。彼女はサカマタの足に歩み寄り、小さくひ弱そうな手で何度も叩く。

「だめぇ、ベル、たべちゃだめぇ……ぐず」
「……ベル、頼んだ」
「はいはい。大丈夫ですよ、#name3#ちゃん。サカマタさんは私を食べようなんて思ってませんから」
「おもってない?」
「思ってないです。だから、泣かないでください」
「……泣き止まなければ、俺たちが館長に喰われてしまう」
「サカマタさんっ」
「事実だ」
「もう……あ、髪の毛とれましたから」
「知っている。手間をかけたな」
「いえいえ」
「たべられない、ベル?」
「食べられません」
「ヨカッタ」
「ふふっ」
「おい、深海魚」
「!! きた、イサナ。にげるっ」
「待て、逃げるな。シャチ! 捕まえろ」
「何故俺が……」
「是非がんばってください」
「お前も行くんだ」
「えぇ?!」









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パネさん宅の水族館夢主さんと共演させていただきました。ありがとうございます。そしてすいません。
サカマタさんが好きだ とおっしゃられていたので、お相手はサカマタさんで書いてみました。
かわいくてそのうえ頼りがいまである夢主さんですが、たまに黒かったりして、ドキドキしてしまいますね(`´*)

3000ヒットおめでとうございます♪ これからもドウゾよろしくお願いいたします。

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共演夢…だと…?しかもサカマタさん!
嬉しすぎて死にそうになりましたよ!本当にありがとうございました!!

これからも我がサイトはちまちまとやっていきますのでこれからもよろしくお願いいたします。


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