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絆と枷


 私の可愛いこどもたちは、すやすやと眠っている。ゾロアは私の鬣の中に、ミラーシはうずくまる私に身を寄せて。
 ゾロアとミラーシのどちらも、私の本当のこどもではない。ゾロアは、ニンゲンたちが山を切り崩していた場所で見つけた。ミラーシは、炎で燃え尽きた小屋の中、動かなくなっていたニンゲンの体の下で見つけた。ゾロアもミラーシも、見つけたときは生きているのが不思議なくらいに傷つき、弱り果てていた。ここまでよく持ちなおしてくれたと思う。どちらも、生きたいと願う気持ちが強かったのだろう。それぞれに意思の強さがなければ、どれだけの手当てをしたところで、意味はなかったはず。

「……まぁ」

 ミラーシが、目を閉じたまま呟く。この子が口にする言葉らしきものは、この「マァ」と、ゾロアを呼ぶときに使う「ニィ」だけだ。あとは遠吠えや唸り声などの、人間らしくない、鳴き声のみ。言葉を学んでいないのだから、仕方ない。自分は、長く共に暮らしているせいか、意思の疎通には不便さを感じない。他のポケモンとも、鳴き声でのやりとりといったものはないようだが、互いに何を伝えたがっているか、大雑把なところは分かるようだ。
 この子は、もうニンゲンの世界では暮らせないかもしれない。それでよいのだろうか。ゾロアには、自分がいなくなっても生きていけるよう、自分が持つ知識と技術を惜しみなく与えるつもりでいる。だが、ニンゲンの子には何をしてやればよいのか。ニンゲンとして生きるために必要なものは、ポケモンの世界では半分かそれ以下しか学べないだろう。しかしこの子は、ニンゲンの世界でニンゲンとして生きていくには、あまりにもポケモンの世界に慣れすぎている。この子には、ポケモンの世界で、ポケモンのようなニンゲンとして生きていくしか、道はないのだろうか。
 ミラーシの目尻に、涙がぷくりと浮かぶ。見れば、顔もわずかながら歪んでいる。悪い夢を見ているのかもしれない。頬を零れ落ちるまえに、首を伸ばして舐めとってやる。その目元に描かれた、乾いた血のような色の隈取り。そのようなものを施す必要はなかったのだが、少しばかり成長し、自分の足で歩けるようになったニンゲンの子へ、おまもり程度の気持ちで描いてやった、自分たちにもある模様。さらに成長した今では、染料を調達するところから塗りなおすところまで、すべてひとりで出来るようになった。気に入っているのだろうか。それとも、自分やポケモンの子と同じ格好をして、仲間だという証をたてたいのか。孤独になることを、恐れているのか……。
 不意に外が騒がしくなる。風の音が強くなってくる。何かが、近付いてくる。身を起こすと、外からの気配に気付いたのか、外に向けた警戒心を察知したのか、子たちが目を覚ました。ゾロアが鬣から抜け出して地に足をつける。

(なにかくるゾ!)

 飛ばされたテレパシーに頷いて答える。テレパシーはミラーシにも伝わったらしく、洞窟の外を探るように見つめていた。子たちを危険に晒すわけにはいかない。彼らを後ろへ下がらせ、寝床にしている洞窟の入り口から外の様子を窺う。音だけだった風が、全身に叩きつけられる。白く強い光がすぐ上から自分を照らしている。何かが空を飛んでいるのだ。逆光のせいでよく見えない。空を飛んでいる何かから、ポケモンが二体現れる。ハッサムだ。両手を軽く持ち上げた姿勢で襲いかかって来た。相手はこちらに敵意を持った存在のようだ。二対一。一瞬たりとも気が抜けない。

(マァになにするんだゾ!)

 二匹のうち片方にゾロアが飛びかかる。戦いかたをまだ学んでいないゾロアの攻撃は、それでも気を逸らす程度には役立ってくれた。ほんのわずかな隙を狙い、繰り出す技。相手の命中率を下げるナイトバースト、紫がかった黒の闇が、二匹のハッサムを襲い、包みこむ。闇はあたり一帯にまで広がり、強風でもって木々を揺らした。今のうちに子らを連れて逃げなければ。二匹のハッサムだけなら向こうが倒れるまで戦っただろうが、今はゾロアとミラーシがいる。彼らに敵の攻撃の手が向かないとも限らない。

「――! マァ!!」
(えーいっ、はなすんだゾ!!)

 子らの叫びが、闇の向こうから飛んできた。闇が霧消した先に見えてきたのは、ごく薄い青の光に包まれて浮かびあがる、ゾロアとミラーシの姿。動けないのか、身動きが出来ないでいるようだった。ハッサムたちの仕業ではない。ハッサムたちは地に落ちて気絶している。子らを浮かびあがらせているのは誰だ。どこにいて、何を狙っているのか。

『動くな、ゾロアーク』

 響き渡る声。雑音が入っているところを聞くに、機械を通してこちらへ言葉を投げかけているらしい。声の主は見当たらない。上に滞空しつづけ、強烈な光を放つものの中にいるようだった。あれは乗り物か。そして相手は、ここに自分がいると知った上でやって来たのか。だが答えが分かったところで、迂闊に動けない状況は変わらない。子らが盾にとられているのだ。相手の出方を待たねば、子らが痛い目に遭わされるかもしれない。

『物分かりのいいことだ。そのまま大人しくしていれば、お前の子どもたちに危害は加えない』
「……」
(マァ! こんなヤツの言うことなんかきいちゃダメだゾ!)
「……マァ!」

 歯軋り。子らを見殺しにすることは出来ない。動かないことで降伏の意を示すと、宙で動けないままになっているゾロアとミラーシが、放り投げられるようにしてこちらへ落ちてきた。そして間を置かず奇妙な形の機械が飛来し、たちまちそれが鉄の箱に姿を変えて、自分たちを取り囲む。闇。子らが手探りでこちらの位置を知り、身を寄せてくる。心細いのだろう。弱気になることは出来ない。今は逃げ道がなくとも、いつかは見えるはず。せめて、ゾロアとミラーシだけでも逃がすことが出来れば。

(……マァ、オイラたちどうなるんだゾ?)

 ゾロアの心の声は沈み、ミラーシも不安げに肌をすり寄せてくる。心配する必要はない。そう告げるように、子らを腕で抱き寄せる。ゾロアとミラーシは絶対に守ってみせる。子らに誓うように、自身を奮い立たせるように。心の中で静かに、しかし強く決意した。

 ゾロアークたち親子を捕らえたコンテナは、大型ヘリの下部へ連結される。ヘリを操る人物、グリングス・コーダイが向かう先は、そう遠くない未来にセレビィが時わたりをして現れるはずの、クラウンシティ――。









我が家と相互ありがとうございます!! の、相互記念ユメです。映画本編より前になりまするー。
設定だけ練って絵しか描いてなかったゾロアーク親子夢主のオハナシでした。リクエストありがとうございます。
夢主を名指しで選んでもらえたのがうれしくてはりきってみましたが、ううむ… 捏造が多しです。ヘリとか。

パネさんへ… かさねがさね、いろいろとありがとうございます(^^)
これからもよろしくお願いいたします!


まさか相互記念に夢小説を書いていただけるなんて感激でした!
これからどうなってしまうのか、気になるお話ですね^^
勝手に背景画像選んでしまったけれど…大丈夫でしょうか…

こちらこそよろしくお願いします!
これからもほうのすけ様のユメを読んではにやにやしたり、文才を羨みたいとおもいまs←


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