一歩進んで理解





放課後。
いつものように部活に向かうため階段を降りていれば、やはり当たり前といわんばかりについて来る梅林先輩。
なんで名前を知ってるかっていったらさっきの授業中梅林 菜々だと教えてくれたからだ。
ま、別になんか嫌じゃないからいいんだけどさ。
そして、あんまり喋りかけてると俺が変な奴扱いされるから今は黙って先輩の話しを一方的に聞いてる。
それでも嬉しそうに話す先輩を見て、どこか俺も落ち着いてしまう。
二ヶ月もの月日を先輩は誰とも話さずにいた。
そう考えるだけでもなんだか胸を締め付けられる。
一人ぼっちってやっぱり強がってても寂しいよなー。


『どうした少年?』

「いや、別になんでもないっスよ」

『相変わらず変わった少年だな』

「それは先輩もじゃないっスか」

『私にとって変わりものとは褒め言葉だな』

「(そーゆーとこが変わりもんなんだよなー)」


さすがにこの先輩は変わっている。
なにが、って言われたら全てのような気がする。
丸井先輩みたいに明るいし、真田副部長みたいな言葉遣いをするし、幸村部長みたいに自由人だし、仁王先輩のようにミステリアスだけど、それでもやっぱり変わり者だ。
でも逆にそれがこの人で、そうじゃなきゃいけないんだよな。
一日しか話してねーけどそんな感じがする。
ってか自由人すぎるのは勘弁してほしいよな。
はぁ、とそれが良い意味なのか悪い意味なのかわからないようなため息が出たとき、前を向けば朝会った丸井先輩と仁王先輩に偶然出会った。


「よー赤也。今日は遅刻なしか」

「いつもいつも遅刻してるわけじゃないっス!」

「週に3、4回しとるから説得力がないのぅ」

「う…」

『少年よ…情けないぞ』


いつも俺が遅刻をしているせいか、言っている先輩たちの顔がからかってますと言わんばかりに輝いている。
いや、普段の行いのせいだけど俺はなんにも嬉しくねー。
それに梅林先輩の哀れんだ表情こそ腹がたつのは俺の気のせいか…!!
変わった先輩だけど、真田副部長みたいに固いとこもあるから嫌なんだよな。
身近に恐い先輩が増えたみたいで素直に手放しで喜べないのが俺の正直な気持ち。(幽霊と話せるのは俺だけの特権みたいで幸せなんだけどな)
ま、本来ならばこーやって叱ってくれることに感謝すべきなんだろーが、生憎俺にはそういった気持ちは一切持ち合わせてない。(自慢げに言ったら真田副部長の鉄拳が飛びそうな話しだぜ)
別にそれが迷惑ってわけじゃねーんだけど、痛いのがプラスされるから嫌なんだよな。
それはさておき、とりあえずこの先輩に俺が触れたならば俺は怒鳴ってるよなーきっと。


『そんな視線で訴えかけても遅刻は少年が直さなければならないぞ』

「うぐ…(相変わらず変なところで鋭いよな)」

『それに、私に触れたならば怒鳴ろうなどという不届きなことを考えていただろう』

「ぐっ…〜っ、早く部活に行きましょう丸井先輩、仁王先輩!」

「お、おう」

「やる気じゃのぅ赤也」

「俺はいつだってやる気いっぱいっス!!」


梅林先輩があまりにも鋭いせいかこの場から逃げたくなったなんて言えねぇ。
なにより、怒られて説教されたくないなんてなおさらだ。
言ったなら説教の嵐だってわかってるからな。
だから、こういうときは逃げるが勝ちだぜ。


********


「先輩本当に暇人だよなー」

『そうか?私は少年を見ることで忙しいのだがな』

「それ、暇人の言い訳じゃないっスか…」

『失礼だぞ少年。私は暇人ではない!』

「はいはい」


むきになって言い返すところは、なんていうか図星ですって言ってるようなもんだよな。
ってかこういうところって俺らと同じ中学生だって感じがする。
なんていうか、真田副部長みたいな言葉遣いしてるから中三ってよりも高校生に見えちまうんだよな。(真田副部長は高校生じゃなくて先生に見えちまうんだけど)
そう考えると新鮮だし、なんか歳が離れてねぇ感じがして嬉しい。
ま、これは俺が勝手に思ってるだけなんだけどな。


「ってか先輩!アレ止めてください!」

『アレとはなんだ少年』

「アレって真田副部長にしたアレっスよ!」

『あぁ!アレのことか』


アレとは先輩が真田副部長にした悪戯のことだ。
別に触るような悪戯をしたわけじゃねー。
ま、しようとしても先輩は幽霊だからできないんだけどさ。
じゃあなにをしたのかっていうと−−さっき先輩は部活動の時間、テニス部に遊び(という名の暇つぶし)に来ていた。
そりゃ今までのことを考えりゃいつものことなんだけど、あまりにもチョロチョロするもんだから俺の視線も気が付けばチョロチョロしていた。
当然先輩の姿は他のやつには見えないから、傍目からは俺が集中せずにキョロキョロしているように見える。
そんな俺を目敏く見つけた真田副部長はそりゃもういつもの調子で「たるんどる!」って思いっ切り怒ってきたわけ。
やべぇ!いつもの説教と鉄拳制裁がくる!なんてわかってたんだけど、そう思っていた時に事件は起きた。
なんと梅林先輩は怒ってる真田副部長の帽子からにょきっと指をだしたんだ。
それがあまりにも鬼の角のように見えたもんだから俺はあろうことか、真田副部長の説教の最中に笑ってしまったのだ。
当然場の空気は凍るし、真田副部長はかんかんに怒るし…普段の数倍のことを要求された。
んでもって落ち込んでいれば目に映ったのは腹を抱えて爆笑している梅林先輩だ。
絶対に分かっていてわざとやったなと俺でもわかる。
本当に踏んだり蹴ったりだ!


『アレは申し訳なかったな。まさかあんな風になるとは思わなくてな』

「本当っスよ!おかげで明日からの鍵当番と部室掃除一ヶ月が命じられたじゃないっスか!!」

『本当に申し訳なかった。だが面白かったぞ少年』

「俺は面白くないっスよ…」


そう俺はそんなことをしてしまったためにこんなにも多い罰が与えられた。(あ、もちろん説教も鉄拳制裁もあったぜ)
んでもって、現在進行形で部室の掃除中ってわけ。
やってかなきゃ絶対に明日先輩に怒られるしな。
なにより今回はジャッカル先輩の協力が一切得られない。
真田副部長いわく、一人でやらなきゃ意味がねぇらしい。
当然、いつものように他の先輩は一切手を貸してくれねぇし。
やになるぜ、なんて思いながらも梅林先輩のような話し相手がいるから続いているようなもんだ。
一人だったらそれこそいい加減にやって帰っている。
だから、まぁ先輩のせいとはいえそこは感謝している。(断じて罰のことは許してないけどな!)


「ーっと、これで終わりっスね」

『そのようだな少年』

「んじゃ帰りますかー。先輩鍵締めて帰りましょ」

『……………』

「先輩?」


集めたゴミを捨てて、戸締まりの確認をして、さぁ荷物を持っていざ帰ろうと思い先輩にその旨を伝えたら急に黙りこくってしまった。
なんかあるのかと思い、気になって改めて先輩を見れば−−寂しそうな、でもどこか諦めたような顔をしてこちらに笑いかけていた。


『すまんな少年』

「へ?」

『私はここから出られないのだ』

「え、ここって…立海からっスか?」

『ああ。以前からなにかあるせいか私は外にいけないのだ。だからすまんが、一人で帰ってくれ』


そう告げた先輩の顔は本当に寂しそうで俺は、お疲れ様でした。また、明日と言って帰ることしか出来なかった。
…先輩は二ヶ月もの間ずっと一人でこの校舎に住んでたのか…。

なんだか、全部の印象が変わった瞬間だった。




20120713

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