幽霊少女に恋をした





先輩が消えてから二週間。
その日はちょうど俺の罰が終わった日だった。

幸村部長と話しあった日は悲しくて、自分の情けなさに落ち込んでいたが、今となってはなんとか乗り越えた。
まぁそれでもたまに感傷に浸って落ち込む日も少なくはねぇけど、あの日以上の悲しみはねぇ。
その次の日は元気を出して部活に行けば、心配しながらもほっとした顔で俺を見てくれるから幸せだと実感した。
いろいろと俺なりに考えてみたんだ。
けど、あの恋を諦めようにも俺にとってはとても大切な恋で、それに今の俺には菜々先輩以上に大切と思える奴はいない。
だから、諦めることは止めて今の恋以上のものを見つけるまで大切な思い出にすることを決めたんだ。


「今日で赤也の罰も終わりだね」

「あ、そうっスね」

「ふふっ、一ヶ月頑張ったご褒美にファミレスでも行って何か奢ってあげるよ」

「まじっスか!!??」


思わぬ誘いに俺の気持ちはいっきにハイテンションへと変わる。
普段の罰なら絶対にそんなこと言わないし、してもくれねぇ。
だけど今回は違うみたいですっげー幸村部長が優しい。
普段ももちろん優しいんだけど、ふとしたときに魔王になるんだよな。
でも部員思いの幸村部長の行動にけちをつける人なんて誰もいなくて、気がつけば先輩たちもそれに賛同してくれていた。


「んじゃ俺らも行って一緒に労ってやるか、ジャッカルが」

「俺かよ!」

「まぁ赤也も頑張ったからのぅ」

「たまにはよろしいのではないですか?」

「そうだな、行くとするか」

「これを機に毎日朝練に来るのだぞ」

「っ!!!はいっ!!!」


こういった優しさがあるから、時に厳しくても先輩たちを好きでいられるんだ。


「じゃあ行こうぜ!」なんて張り切る丸井先輩を筆頭に俺達も部室を出ていく。
今は部活の終了時間だから他の運動部や文芸部の奴らがちらほらと帰っていた。
そんなのを目尻に置きながら歩いていれば、俺より前にいた柳生先輩が急に立ち止まった。


「おや?」

「どうしたんじゃ柳生?」

「あそこに他校生の女性が」

「他校生の生徒っスか?」

「誰かのファンの追っかけか?」

「いや、確率としてはすごく低い。きっと誰かに用事があるのだろう」

「珍しいこともあるんスねー…−−っ!!??」


他校生の生徒なんてのは滅多にこねーし、来たところであまり興味もなかったから見るつもりなんて一切なかった。
けど、そーいや先輩も他校生だったんだよな、なんて懐かしいことを思い出しながら先輩たちの言っている他校生を覗き見る。
その瞬間、俺の時は止まってしまった。
後ろ姿があまりにも似ていたんだ、菜々先輩に。
髪型も制服も立ち振る舞いもすべてがすべて二週間前に成仏してしまった菜々先輩そのもの。
他人の空似にしては偶然過ぎて、気がつけば菜々先輩の名を口にしていた。


「菜々、先輩?」

「おい、赤也!!??」


ジャッカル先輩の呼び止める声など無視して俺はまだまだ人が残る校門へと走り出した。
−−すべてを確認するために。


「先輩?梅林 菜々っス…か?」

「不安そうに言うな少年。二週間もしたら私のことなんて忘れてしまったか?」


振り向いたその姿に、声に、笑顔に俺は泣き出してしまいそうになった。


「な、んで…」

「私は少年を驚かせてばかりだな」

「そうじゃなくて!!」

「今度は生身の人だ。だから、もう幽霊ではない」

「じゃあ…もう別れなくてすむんスか?」

「あぁ」


その言葉を聞いて、情けないかもしれねーけど嬉しくてさっきまで我慢していた涙が溢れてしまった。
正直なんで先輩がこの場にいるのかわからない。
だけど、前は触れれなかった先輩が今、触れれる状態で前にいることが嬉しい。
ちらほらと帰る人の中でこちらを見る人物は何人もいるけど、それでもそんなこと気にならないんだ。
けど、どういった経緯でここにいるにしろ、俺には伝えなきゃいけねーことがある。
ずっとずっと言いたかった未練があるんだ。


「菜々先輩!俺にも未練があります!」

「奇遇だな、私にも未練ができてしまっていたのだ」

「俺から、言ってもいいっスか?」

「むろんだ。以前は私から言ったからな」


以前と変わらない笑顔に俺も安心したのか、それとも喜んでいるのかはわかんねーけど気がつけば涙は止まっていた。
そして、俺を見る先輩の瞳に俺は話し出すことを決心した。


「俺は先輩と過ごした日常が好きで、大切でした」

「少年…」

「すっげー大事で捨てたくなかったっス。だって俺にとっては大切な思い出なんス」

「ふふ、ありがとう」

「ねぇ菜々先輩」

「ん?」




「すっげー好きっス」




伝えた正直な気持ちは周りから聞こえるいろいろな音を掻き消して、その気持ちだけ聞こえた。
それは俺の心臓をバクバクとさせるには十分で、なによりも試合よりも緊張したんだ。
けど、先輩を見れば驚く様子もなく俺の大好きな笑顔で俺を見てくれていて、そして口を開いた。


「私の未練も少年と同じだ。好きだよ赤也」


その言葉が聞こえた瞬間、俺の身体はもう動いていて、その小さく華奢な身体を抱き上げていた。
周りから聞こえる驚きの声なんて俺には聞こえず、今目の前にいる先輩しか視界に入らない状態だ。


「よっしゃああああっ!!!!」

「え、あ!赤也!!!」

「好きっス!!本当に本当に好きっス!!!大好きっス菜々先輩!!!!」


抱き上げてくるくる先輩と回れば、普段では考えられないほどに顔を真っ赤にして俺を見ている。
けど大声の俺の告白に頬を真っ赤に染めながらも、綺麗な笑顔で俺に笑いかける。
ああ、やっぱり俺は先輩が大好きだ。


「ふふ、私も赤也が大好きだよ。出会ったときから」


誰よりも大好きな先輩は幽霊だった。
触れれないし、温かみもなくて、ただ話すしかできなかった。
けど、そんな先輩に俺は気がつけば恋をしていた。
けど今は違う。
今は触れるし、温かいし、なによりも傍にいれる。
きっとそんな菜々先輩に俺はこれからも恋をし続ける。
そういや、余談になるけど先輩は幽霊は幽霊でも幽体離脱した幽霊だったんだ。
だから本人も死んだと思っていて幽体離脱なんて思いもつかなかったって言っていた。
当たり前といえば当たり前か。
それで、病院に居たから会いに行くまで時間がかかってしまったんだって。
本当に本当の余談なんだけどな。







「赤也あああああっ!!!!貴様は校門の前でなんてことを!!!」

「堅すぎだろぃ真田。いーじゃねーかよぃ」

「プリッ。それに後輩が幸せそうにいるんじゃ」

「水を差すのは些かどうだと思いますね」

「まぁ、真田は風紀委員だしよ…」

「それでもうざいよね真田って」

「「「……………」」」

「赤也。あの黒帽子は空気が読めんな」

「菜々先輩なに言ってるんスか!!??」

「事実だ」

「よほど赤也との空間を邪魔されたのが嫌な確率100%」

「ーっ!!!菜々せんぱーいっ大好きっス!!!」
「私もだ赤也。これからもよろしく頼むぞ」

「ういっス!!!!」






Happy end.20120821


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