君への気持ちに





心にぽっかりと穴が空いたようだった。

昨日、菜々先輩は俺の目の前で成仏しちまった。
それを見届けた後どうやって家に帰ったかは覚えていない。
だけど気がついたら家にいて、そしてベッドの前に立ち尽くしていた。
それから母さんが夕飯に呼びに来たんだけど、いらないって言ったような気がする。
確かそれで驚いた姉貴が来たんだけど特に言い返す気もなくて寝ちまった。
そんな様子だったから朝から心配されたんだよな。
んで、最近では朝練の鍵開けのために寝坊せずに起きていたから癖で今日も起きちまった。
だから、いつものように朝練に向かったし、準備もしたんだけど何にも手付かずな状態で朝練は悲惨だった。
そんな状態に先輩たちが気づかないはずもなく、朝から真田副部長に「しゃきっとせんか赤也!!」なんて怒鳴られたけど、それでも身に入らない。
さすがにいつもの気の抜けた様子じゃないとわかったらしく真田副部長もそれ以上は何も言わなかった。
それどころか、普段じゃ考えられないほど優しくしてくれて、少し涙が出そうになったのを覚えている。
それで、幸村部長も柳先輩も、他の先輩たちも、後輩、同級生も俺のことを心配してくれて…なんだか申し訳なかった。
朝練はそれで終了したんだけど授業も朝練と一緒で悲惨だったのは変わらない。
それで一日が終わって部活に向かって、部室で着替えてコート出てもやっぱり心に穴が空いていた。
そんな俺の様子を見兼ねたのか、幸村部長は俺を部室へと呼び出したんだ。


「赤也、今日はどうしたんだい?」

「すんません…」

「別に怒ってはないよ。むしろ逆で心配しているんだ。赤也がそんなふうに何かを抱え込んでいることを」

「幸村部長…」


ああ、こういった部員一人一人を見てくれる幸村部長だから俺はついてこれたんだって改めて思った。
親身になって考えてくれる先輩に柄にもなくまた涙が溢れそうになる。
けど、なんとか堪えてあまり幽霊とかって単語に触れないよう考えて口を開く。
きっと俺の先輩たちはどんな内容だって親身になって考えてくれると思うし、馬鹿にもしないとわかってる。
けど、そうそう言えるような内容じゃないから口が開けないんだ。
だからそれを避けるようにして話す。


「昨日大切な人がいなくなっちまって、心に穴が空いたみたいに寂しいんス」

「え?」


俺からでる言葉の中で一番意外だったのか、驚いたっていうような感情の篭った瞳で幸村部長は俺を見た。
だけどすぐにそれは消えて、穏やかな、暖かい目で俺を見る。
なによりも「そっか…あの赤也が」と呟いたときの幸村部長は、息子が成長したなぁーなんて関心している父親みたいで、なんだか余計にむずむずしてしまった。
でもそんな俺の様子にお構いなしに突っ込んでくるのが幸村部長で。


「その大切な人ってどんな人なんだい?」

「え?」

「赤也の大切な人を俺は知りたいよ」


やっぱりそういった方に興味を持っちまうんだよな。


「その人は俺の一個上なんス」

「うん」

「すっげー変わってて、あ!例えるなら絶対に真田副部長っス!話し方も似てるんスよ!!」

「へぇ真田に似てるなんて面白いね」

「本当にそうなんスよ!固くて固くて!」

「うん、なんとなく想像はつくよ」

「けど、すっげー優しいんっス。面白くて、誠実で、気が利いて、悪戯好きで困ることもあるんスけど…俺のことどこまでも想ってくれる優しい先輩なんス」


だけど話しながら俺は気がついた。
菜々先輩のことを嬉しそうに伝えていると。
普段の俺がこういったことを言う時は本当にその人を尊敬していて、大切だと思っている時にしかでない。
それが俺の癖だからよく理解している。
それに、菜々先輩のことを話し出すときりがないんだ。
次から次へとでて止まることをしらない。
そんな様子は聞いていた部長にも伝わったみたいで、いつも以上に嬉しそうに優しい表情で俺を見ている。


「その人は本当に赤也が好きなんだってわかるよ。だから、赤也もその彼女を同じように好きになったんだね」

「え、好き…?」

「そう。赤也はその人が好きなんだよ」

「なっ…」


好きと何気なく幸村部長から伝えられて俺は思いっきり動揺した。
それになんで女だってわかったんだ?って疑問に思ったけど、先輩の赤也の表情や仕草でわかったよと幸村部長に言われてなんとなく納得もしてしまった。
けど、その恋心は…−−。


「気がつかなかったっス」

「居るのが当たり前過ぎて気がつかない時だってあるよ」


じゃあ俺はずっとずっと菜々先輩が好きだったんだ。
だけど理解した瞬間から言いようのない悲しみが俺を襲った。
だってそれはもう伝えれない思いだから。
どんなに先輩を思っていても、もう伝える術はない。
それが悲しくて、なかなか受け止めれなくて子供じゃないかっていうくらいにわんわん泣いた。
だけど幸村部長はそんな俺を笑うこともなくただ傍に居てくれた。
それが余計に泣けたけど、ただこの恋をどうするかで俺はわからなくなってしまったのは確かなんだ。





20120821


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