オサソイ
テツヤはアレなのだろうか。
性欲というのがないのだろうか。
「テツヤ〜」
最近エッチしてない。
かと言ってしようとも言えない。
「テツヤ〜…テツテツ。テツヤ」
テツヤの部屋のベッドに寝転んで、意味もなくテツヤの名前を呼ぶ。
「千晴さん、パンツ見えますよ」
いつもと変わらない表情でそう言われた。
制服のスカートを少しはだけさせたままベッドに寝転んだら、流石に欲情してくれるかと思ったが、なかなか手強い。
ギリギリ見えないぐらいがエロいとかって良く言うけど、ハッタリだ。
「………」
やっぱりストレートに「したい」って言うしかないのだろうか。
それか私がテツヤを押し倒す……?
…そんな恥ずかしいことは絶対にできない。
こうやってさりげなく誘惑とかしか私にはできないみたいだ。
「…テツヤ」
腹が立つくらい気づいてくれない。
「…テツヤなんか死んじゃえーっ…」
「…」
「もう死んじゃえ…」
テツヤの枕に顔をうずめて、足をバタバタさせる。
「…じゃあ死にます」
「それはやめてっ!」
ガバッと顔を上げてテツヤにそう言うと、テツヤは何も言わずに私が寝転んでいるベッドに近づいてきた。
「………?」
テツヤはすぐそばに来ると、おもむろに私の顔に手をのばしてきた。
ドキッとして期待したけど、テツヤの手は私に触れることはなく枕元にあった本を取った。
テツヤは本を手に取ると私に背を向ける。
私はそれと同時にテツヤの服を無意識に引っ張った。
「…ま、待って…」
「どうしたんですか、千晴さん」
テツヤは振り返ると、まっすぐ目を見てきて、何だか恥ずかしくなり顔が熱くなった。
「…キ、キスして…」
そんなことをとっさに言ってしまって、さらに顔が熱くなる。
「今は少し風邪気味なんでできません」
気づいてくれないテツヤ。
上体を起こし、唇を噛み締めて小さな声で言った。
「やだ……して…」
「できません」
即答。
「うつっていいもん、風邪なんか…だからお願い…」
「………」
気づいてくれないのと恥ずかしさから、目に涙が溜まる。
テツヤはそんな私を見て、小さくため息をついた。
そして本をバサッと床に落として、「すみません」と何故か謝ってきた。
「……気づいてたけど、気づいていないふりをしてました」
「えっ……」
「どうしても可愛くて…すみません」
テツヤはそう言うと困ったように微笑んだ。
そのテツヤの言葉に、溜まっていた涙がぶわっと溢れる。
「あり得ない!最低!バカっ!!」
全部わかっていたのに、テツヤは必死な私を見て楽しんでいたってことだ。
優しくベッドに押し倒されて、涙を拭かれる。
私がそんなテツヤをキッと睨みつけると、テツヤはフッと笑って言った。
「もう我慢できないんで、ケンカは後です」
≪END≫
テツヤさんはわりと鈍感じゃなく敏感だと思う。