ただ、

最近の私の日課

放課後に窓側に座って野球部の練習を見ること

しかも、好きな人の席に座って

考えるのは、この席の…
阿部くんのことばかり

野球部の副キャプテンで人気な阿部くんと違って、引っ込み思案な私は
会話すらあまり交わしたことはない

だけど、あなたのことを考えるだけで幸せな気持ちになる


そぅ、思ってた



「ばいばーい」

『また明日ね』

友達に別れを告げ、みんなが帰っていくのをぼんやりと見る

野球部のみんなも挨拶が終わるとすぐに出ていってしまった


『ふぅ…』

しばらく宿題を進め、気がつくと教室には自分1人になっていた

本当にみんなが帰ったか確認し、窓側の…阿部くんの席へと移動する

今日もボールとミットの力強い音や、軽快な音と共に宙に飛んでいくボールを目に映す


目的の人物もすぐに見つけ、思わず口端が上がる



多分、伝えることのない気持ちだけれど…

ずっとずっと見てたいな…



『…ん』

外を見ると真っ暗で、寝てしまったことに気づいた

慌てて時計を見るとまだ7時前で
ホッと深く座り直す
と、


「***…??」

いきなり名前を呼ばれ、教室の後ろ側のドアを見ると制服姿の阿部くんがいた

「俺の席で何やってんの??」


その言葉で自分の現状に気づいた


『えっと、忘れ物取りに来て…あ…あの、席間違えちゃったみたい…』

どうしよう!!!
ヤバいッッ見られた!!
よりによって、1番見られたくない人に!!
絶対変な奴って思われたよ!!

緊急事態に私の頭は混乱して
慌てて席を立ち、鞄を取ると前側のドアから出ていこうとした
が、走ってきた阿部くんによって行く手を塞がれた


「…嘘だろ、忘れ物取りに来たなら座る必要ねーし」

ごもっともです

『……あ、走ってきたから疲れちゃって
…それで、座っちゃったの…』

うつむき、自分でも苦しい言い訳だと分かっていながらも早くこの場をさりたかった
しかし、そんな願いは虚しく
いきなりに引っ張られたかと思うと、阿部くんによってドアの内側に迫られたそんなことを考えていると
トドメの一言が頭上から降ってきた

「ふーん…学校終わってから、今まで??
しかも毎日??
***の忘れ物って見つかんないもんなの??」


『ッッ…』


バレてたーーー
鞄を握る力が強くなる
ますます顔も赤くなってるのが分かる
恥ずかしい!!!
もう消えたい!!!

見てるだけだったのに…!!


「で、本当はどうして?」



阿部くんが私を見ているのがわかる
でも、本当のことを言ったら
絶対に引かれてしまう
そんなの嫌


『あ、阿部くんには関係ないか「あるよ」


『へ??』


「だって俺が***のこと好きだから」

思わず顔を上げると
多分、私と同じくらい顔を赤くした阿部くんが


「自分の好きな奴が、自分の席に座って
毎日自分の部活の方見てたら
気になるだろ」


真っ直ぐに私の目を見つめる阿部くんは、とても真剣な声でそう言った



「俺は***が好き」



その言葉がとてもとても嬉しくて
頷くことしかできなかった


阿部くんは頭を軽くかき、優しく微笑むと


「で、俺の自惚れでなければ
返事はOKだよな??」


また私が頷くと、そのまま私に抱きついた

ただ、見てるだけで良かった
それだけで満たされていた
それ以上のことを求めていなかったと言えば、嘘になるかもしれないけど

ただ、


(ただ、ずっと見てました)

(実は俺も)


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