昇る月
ウトウトとしたのはほんの一瞬だったと思う。自分の中からソイツがズルリと抜け出てった瞬間を思い出して、背筋がゾワリとして意に反して中が蠢く。行き場をなくした白く濁った液体がトロリと零れるのを感じた。早くこの熱を忘れてしまいたいと息を吐く。隣の男が枕元の煙草に手を伸ばして、ずれた掛け布団に「すまねェ」と小さく呟いた。風呂に入りてぇなぁと思いながら隣の男を目だけで見た。箱から煙草を取り出すと咥えてマヌケなライターで火を点ける。吐き出したのは煙なのか、ため息なのか。
「風呂入るか?」
「入る。気持ち悪ィもん」
「……もうちょっとどうかした言い方はできねェのかよ……」
「は? そういうのを期待すんならよそに行けよ」
土方は僅かに眉根を寄せて今度こそため息を吐いた。
「風呂、入れてくる」
そう言ってまだ長いままの煙草を灰皿に押し付けると、土方は布団から出て行く。ポカリとできた空間にヒヤリとした空気が入り込む。思わず身震いしてから布団を被り直した。
「ついでに水も頼むわ」
土方の背中を眺めてそこになんの痕も残していないことを確認しながら誤魔化すみたいに声をかけた。
「わかった」
返事が返って来る。背中を見送ってからハァと大きく息を吐いて窓の向こうに目をやった。暗い空の低いところに欠けた月が浮いていた。ひっそりと昇る不完全な月に眉を顰めた。
「阿呆だな」
そう呟いてから目を閉じた。土方の「起きろ」という面倒くさそうな声を想像すると少し笑えた。
(土方さんと銀時さん)
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