君と祝う双子の弟の突然の行動には慣れたものだけれども、双子ながらその思考までは理解できないこともある。 大事そうに両手で渡されたのは一輪の白い菊の花。 部活でくたくたに疲れて帰宅した所に渡されたこの菊の意味を割と必死に考えたが、どうしても悪い方にしか思考が行きつかない。 そうして手渡された菊の花と相変わらず真面目なままの顔とを交互に見ていると、何を勘違いしたのか玄関に飾ってある花瓶から一輪、今度は黄色の菊の花を贈られた。この花瓶だって、確か朝には別の花が飾ってあったはずなのに。 「どういうつもりの嫌がらせなの」 「9月9日って何の日か知ってる?」 「知らない。てか、話聞いてくれる?」 9月9日が何の日かなんて、必死に先月のことを思い出してみたけれどもさっぱり浮かんでこなかった。普通に平日だったような気がするけれど。というか、そうじゃなくて。 「この菊の花、なんなの」 「ちょっと待ってよ、順番があるの」 なに、順番って。 「9月9日って何の日か知ってる?」 「だから知らないって。ていうか、もう過ぎてるし」 「旧暦ってことでいいでしょ。で、どうやらこの日は長寿を願う日らしいんだよ」 「ああ、そう」 「なんかつれないね」 「いつものことでしょ」 だって興味ないんだもん。 その言葉が気に入らなかったのか、腕をぐいと引かれて家の中に連れて行かれた。あわてて脱いだ靴はあっちとこっちにとても行儀悪く転がってしまって。あとでちゃんと直さなきゃ、母さんに怒られてしまう。 「ちょっとくらい真面目に考えてくれたっていいじゃない」 無理矢理連れてきたコイツはあからさまに嘘だと分かる風に大げさに泣いて、クッションをばんばん叩きながらソファーに突っ伏した。 これは部活終わりで疲れている身体にはなかなか堪える。 「泣くのはいいけどなんなの、よく分からないんだけど。菊と関係あるんでしょうね」 「あるよ。旧暦だと9月9日あたりに菊が咲くとか咲かないとかで、長寿祈願に菊を飾ったり、菊の花を浮かべたお酒を飲むんだって。ね、やらない?面白そうでしょ?」 「残念、未成年だからできないよ」 「うん、だからお茶とかでいいよ」 「花、防腐剤みたいなの付いてないかな。それ花屋の花でしょ」 「大丈夫だよ。さっき舐めたけどなんともなかった。苦くも甘くも辛くもないけど味もしない」 「そりゃあ、すぐに具合が悪くなることはないでしょうけど」 「だから大丈夫だよ」 「ちっともよくない」 「いいじゃない。一緒に飲むんだから」 一緒に。 ぽつりと独り言のように繰り返した言葉に、仕方なくこちらが折れてやる。と、途端にぱあっと明るく眩しいほどの笑顔でじゃあやろう、すぐやろうと今度は台所に連れて行かれた。忙しい奴。 「お茶入れるから、花びら千切ってて」 「うん。ところでひとつ聞いていい?」 「ん、なに」 「こんなことどこで覚えたの」 「古典の先生がね。起きたとことで話してて、面白そうだったからやってみようかと」 「寝るなよ」 「いいじゃない、眠いんだもの」 ただ面白そうだったからやってみるにしては随分嬉しそうな口調。 菊以外の花も撒き散らしてそうに楽しげにお茶を淹れる姿にひとつ小さなため息をついて、花びらを取り終わった茎を投げつけた。 「なにすんだよ」 「最初から素直に言えばいいんだよ」 「何をさ」 「だから」 お前だけじゃないんだってこと。 -------------------- サークル用に書いたものをサイト用に書きなおしました。 サークル用では性別が分からないように書きましたが、こちらは読みやすいように少し直しています。 個人的な双子ブームの産物。 サークル用のも好きだけど、サイト用に書きなおした方も好き。 どっちも違ってて好き。 |