インターハイ2

赤葦らの木兎誘拐疑惑が杞憂に終わった訳だが、そんな心配していた梟谷の面々をよそに木兎と少女、なまえは初対面とは思えない程に仲良さげに話を続けていた。

「なまえは可愛いなぁ!」

「えへ、木兎くんもかっこいいね」

「だろ!?だろ!?光太郎お兄ちゃんと呼んでいいぞ!」

木兎は誇らしげに話しているが、精神年齢は小学1年生と言っていたなまえと何ら変わらないと全員が思っていた。

「木兎さん、そろそろ降ろしてあげては?」

なまえはキャッキャッと楽しそうに笑っているが、あまりにも危なっかしい木兎の抱っこの仕方に、落として怪我をさせかねないと心配した赤葦が口を挟んだ。

「赤葦も抱っこしたいのか??」

「違います。怪我をさせてからでは遅いですよ」

「あ!なまえ、赤葦はセッターだぞ!!抱っこしてもらいな」

「…」

見当違いなことを話す木兎に赤葦は律儀に答えるが、話はそのまま明後日の方向に飛んでしまったまま。もういい、とりあえず木兎さんからこの子を離せさえすれば安全だと差し出されたなまえを丁重に受け取る。なまえも嫌がることなく赤葦の方へと手を伸ばし、赤葦にぴったりとくっついた。

「赤葦くんセッターなの?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、ふくろうだにのしれーとー?」

「しれーと?…ああ司令塔ね。セッターだからそうなるね」

「侑くんといっしょやねー」

間近できゅるんとした目が赤葦をみつめる。セッターだと分かるや否やさらにそのまんまるの瞳をキラキラと輝かさせた。赤葦はその瞳は何故か既視感を覚える。

さっきの「セッターが1番かっこいい」発言といい、なまえはセッターが好きな様子だ。稲荷崎には高校トップクラスのセッター宮侑がいるからなのか理由は分からないが、同じポジションの赤葦のことももれなくお気に召した様子でにっこにこで屈託のない笑顔を赤葦に向ける。

「でも赤葦くんは角名くんとにてるね」

「? えーと、」

「なまえ、角名くんすきやから今日のゆにほーむのばんごうは角名くんといっしょやの」

「あの体幹の」

「赤葦くんもくーるでかっこいい!」

「…ありがとう」

稲荷崎のユニフォームと酷似しているなまえのその服は稲荷崎ユニのレプリカのようだった。それには10という数字が書かれている。遠巻きで見ただけなのでよくは知らないが、稲荷崎の10番と言えば自分と同級生ながらも主砲の1人であるターン打ちの選手を思い出す。

「…赤葦が美少女に懐かれてる」

「赤葦いいなァー!!」

「なんか意外」

「赤葦は天真爛漫に好かれるタイプか」

「おい木兎は天真爛漫で済まないだろ」

「確かに」

「おい!失礼だぞ!」

降ろすタイミングをすっかり見失ってしまった赤葦がなまえを抱いたまま話す姿に梟谷のレギュラー陣の3年達はしばし呆気に取られていた。

子どもと言動や行動が同じレベルの木兎がなまえと仲良くなるのはなんら不思議はないのだが、赤葦のように普段から表情筋が仕事してないような人物が、見た目や仕草まで全てが可愛らしさ全開のなまえを抱っこしてる様は異様な光景である。

「赤葦くんはやさしいね」

「そう?普通だと思うけど」

「治くんがね、とーきょーもんはこわいから気をつけなって言うててん」

「偏見がすごいけど、気をつけるに越したことはないね」

しかし、なまえは気にすることなくマイペースに赤葦に話しかける。元より人懐っこいのもあるかもしれないが、侑と同じセッターということや仲良しの角名と雰囲気が似てることもあり、親近感が湧いているのかもしれない。赤葦も真面目な性格の為、表情は乏しいながらもなまえの言葉一つ一つに耳を傾けて受け答えをしていた。

「お、アラン!」

「北が言うてたけど、ほんまに梟谷とおったんやな」

そんな中、尾白が来たことにいち早く気づいたのは木兎だった。赤葦に抱っこされ、梟谷のレギュラー陣に囲まれたなまえを見つけて尾白は少し驚いた様な表情を見せる。しかし、なまえの人見知りのしない性格は今よりも小さな頃から知っており、この光景に少し驚きはしたが不思議ではなかった。

「アランくん!もうお話終わったん?」

「おん。双子が騒ぎ出す前に帰ろか」

なまえも尾白に気づいて嬉しそうに微笑む。なまえの言うお話と言うのは稲荷崎に密着中のテレビのインタビューである。普段なら暇さえあれば、なまえと絡む双子であるがテレビ取材の為、少し距離を置いていた。

その理由は双子曰く「こんな可愛い子、テレビ出てもうたら可愛すぎる従兄妹って取り上げられるやん」「そしたらなまえのファン増えるんはええけど、ストーカーとか怖いやん」とのことである。身内の贔屓目もいいとこだが、本当にそうなってもおかしくないと思ってしまうのはなまえが見た目だけでなく、天性の愛嬌の持ち主であるからだろう。

「すんません、お世話になりました。なまえおいで」

「いえ、こちらこそ。木兎さんの相手をしてもらって助かりました」

「赤葦、それ逆じゃね?」

尾白がペコリと小さく頭を下げてなまえを受け取る姿は、なまえの言ってた通りお母さんの様であった。

「侑くんと治くんもお話終わった?」

「もう終わるんとちゃうか」

「…宮兄弟とも随分仲良しなんですね」

「なまえは双子の従兄妹やからな」

「え?」

「見えへんやろ。分かるわー」

「宮ンズいいなー!」

なまえがあまりにも稲荷崎と仲が良さそうだったので、知り合いというよりも稲荷崎主将の歳の離れた妹かと思っていた赤葦、そして木兎以外の面々もなんとも言えない表情をする。その顔を見て尾白はケタケタと笑った。勝ち気で高圧的な態度の侑や、同じように闘争心が高く負けず嫌いの治の従兄妹がこの可愛いらしい天使のような少女とは誰も思いつかなかったのだろう。

「赤葦くんだっこしてくれてありがとぉ」

「どういたしまして」

「光太郎お兄ちゃんもまたね!」

「おう!またな!」

そんな複雑な梟谷の心境も知らず、なまえは無邪気に赤葦に笑いかけた。そのキラキラの笑顔が赤葦は木兎とダブって見える。ストレートに褒める姿や真っ直ぐなその目が似てると思った。赤葦が小さく振り返した手になまえはさらに嬉しそうに笑った。

「可愛いかったですね」

「え!?」

「何ですか…?」

「お前ずっと無表情だったぞ。俺が抱っこしてる時も眉間にしわ寄せ出たし」

「それは木兎さんが落としそうだったので。ずっと可愛いらしいなって思ってましたけど」

「赤葦って気持ちと表情が繋がってないの!?」

「ポーカーフェイスと言って下さい」

「何それカッコいい!俺もやりたい!」




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