バレー部専属チアガール

毎日ではないが、バレー部同士で昼休みに集まって昼食を取ることがある。用があったり、なんとなく集まったり理由はまちまちだ。

今日は練習の前に確認したいことがあった為、隣のクラスに向かおうと侑と銀島が弁当箱を持って立ち上がると教室の入り口からクラスメイトが侑を呼んだ。

「侑〜、チアの先輩が呼んどる」

「告白か、モテる男はつらいわぁ」

「先行っとるでー」

「ちょっとは羨ましがれや!!」

侑の生態(人格ポンコツ)がバレてる同じクラスの女子にはとことん相手にされていないが、やはり顔は良いので隣のクラスや、先輩後輩にはかなり人気がある。こうして呼び出されるのも少なくない。

尾白から双子のツッコミを求められることの多い銀島だが、こういう時はスルーが1番である。監督の「無視が一番応えんねん」という教えを忠実に守り、騒ぐ侑を置いてもう一つの扉から隣のクラスへ向かった。

「あれ、侑は?」

「いつもの呼び出しや」

「顔だけはいいもんね」

ベランダ側の窓際に居た角名と治と合流すると銀島しか来てないことに角名が理由を尋ねる。治の方は気にも止めず、すでにもぐもぐと口を動かして幸せそうに弁当を食べ進めていた。

「治、家庭科部の先輩が呼んどるで」

「飯食った後にせぇや。…あ、差し入れか」

「治は何でそうなるねん」

「普通は告白でしょ」

先程の侑と同じように今度は治が呼ばれた。侑同様、双子の片割れの治ももちろん顔がいいのでこういうことがよくある。侑と治どちらもほぼ同時に呼ばれることは珍しいのだが。

「やって、家庭科部やし。肉まん食いたい」

「今、弁当食ってるとこやん」

「差し入れだとしても、もっと可愛らしいものだと思うけど」

侑に比べてましに見える治だが、普通の奴と比べれば大概おかしい方である。昼食中に邪魔されたと顔を歪めるが、差し入れでなんか食い物くれるかもと違う理由で期待している治に角名と銀島は呆れながら見送った。

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「で、どうだったの」

治が教室を出て結構経った後、侑と治が同時に戻ってきた。角名の問いにクラスの女子たちが少し静かになったのは、いつもであればすぐに告白を断って戻ってくるのに、2人とも今日は帰りが遅かったからかもしれない。

性格を差し引いても、顔や身長などの見た目はもちろん、特にバレーをしてる時の侑と治には異性を虜にする魅力があった。なんでこんな奴好きになったんだろう…と恋愛ソングの歌詞に出てきそうなことを思ってる女子は意外と多い。

「オッケーしたわ。なぁサム」

「おん」

「え?」

思わぬ事態に口をぽかんと開けたのは角名だけではない。侑と治どちらかに気がある女子たちが一斉に固まる。あの宮兄弟に彼女が出来た。しかも同時に。とんでもないことが起きてしまったと双子に恋してない女子たちも、たった今目の前で失恋をした友人たちになんて声をかけていいか分からずシーンと静まり返る教室。しかし、そんな空気を気にすることなく、どんよりした教室内に不釣り合いな侑の明るい声が響いた。

「チアガールなんてオッケーに決まっとるやん!最っ高や!!」

「侑、チア好きだったんだ。意外」

「当たり前やろ。なまえのチアとか絶対可愛いやつやで」

「チア部も家庭科部もええ仕事しよるわ。なまえの写真むっちゃ撮ろ」

「…待って。全っ然、話が見えないんだけど」

よく聞いてくれた!とクラスの女子たちが心の中で角名に賛辞を送る。双子の従兄妹なまえの名前がでてきたことに、もしや告白じゃなかったのでは?と女子たちに小さな希望が湧いた。角名と同様に会話の流れがわからない銀島も口を開く。

「告白やなかったん?」

「ちゃうちゃう。呼び出されたらツムもおって今度の試合あるし、なまえにチアガールの服作ってもええかって相談」

「相談言うてもほぼ出来上がっとったけどな!あの人らもなまえに着せる気満々やで。まぁ大賛成やけど」

どうやら告白ではなかったらしい。聞き耳を立ててた女子たちがほっと息を吐いた。

普段あまり交流のないだろうチアリーダー部と家庭科部が協力しあって衣装提供を行うことにさせたのは双子の従兄妹なまえの天性の人たらしによるものだろう。人を虜にする才能は双子よりもさらに群を抜いて優れていることに、角名も驚きを隠せなかった。

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「可愛いって罪やな」

「可愛すぎて罪やわ」

そして金曜日。翌日に迫った試合の前に衣装合わせを行う為、チアリーダー部協力の元、家庭科部渾身の出来のチアガールの衣装を身につけたなまえに訳の分からない事を口走るのは従兄妹の双子たちである。

黒と赤が基調で胸元には稲荷崎のロゴ。なまえが動くたび、ヒラヒラと短いスカートが揺れる。髪はなまえが以前話してた通り、チアガールの基本ポニーテールになっており、今日は衣装に合わせて赤いリボンでなまえのさらさらの栗毛が結われている。応援に使うポンポンも特注の一回り小さななまえ専用サイズ。忠実な完全再現である。これを約一週間で作り上げた家庭科部に侑と治は深々と頭を下げた。

「なまえ、よう似合ってるやん」

「えへ、アランくんありがとう」

「侑、歓喜のあまりちょっと泣いてるで」

なまえの周りに続々とバレー部3年も集まってくる。先程まで可愛いを連呼して大騒ぎしてた双子はスマホを取り出してなまえの撮影に夢中だ。大耳の言う通り、侑の目には涙が溜めながら「なまえが応援してくれるなら死んでも優勝したる」と物凄い意気込みである。

「路くん見て見て!なまえ、チアのおねえちゃんみたいにおーえんできんねん」

「おー、凄いやん!当日もなまえが応援してくれたら優勝間違いないわ。なぁ信介」

「双子なんか特にそうやろな」

「信介くんもなまえのおーえんうれしい?」

「せやなぁ、なまえの応援聞いたら力漲ってくるわ」

「じゃあ、いっちばんおーえんする!!」

「それは楽しみやなぁ」

その日一日、侑と治のスマホのシャッター音が止まることはなかった。夜になって稲荷崎バレー部のグループラインになまえアルバムが作成されなまえのチアガール姿が侑と治、そして角名が大量に写真を追加していき部員たちは「多すぎるやろ」と思いながらも、それぞれ結構な枚数を保存していくのだった。


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