きらきら

「天爛?」
「ん……?」
眠そうな瞳が、ふらふらと揺れて、そして私の瞳を捉えた。
「詩羽……」
そして、幸せそうな顔をした天爛に、こつん、と頭を預けられた。
なんて可愛いのだろう。
「もう……」
まだ少し時間があるから、寝かせてあげよう。
そっと、自分の肩に寄りかかる少し癖のある髪に触れながら、私は雪の降る窓の外へと視線を移した。


朝は、まだ少し不安になる。
私が弥代の本家に帰るために突然いなくなった日のことを、彼が忘れたとは思っていないけれど、
見上げた天井が無機質なもので、そしてその周囲に誰もいないのではないかという恐怖に駆られた瞬間、
意識が一人きりで耐え続けた夜へと巻き戻る。

「ごめんなさい」

ぽろりと言葉が零れて、天爛が起きないか不安になった。
ごめんなさい。でも、その言葉は聞かないで。聞かなかったことにして。
『好きでした、ずっと大好きでした、今も大好き、愛してる。でも、……あなたの命のために、私の命を差し出す必要があるなら……私は、躊躇わない』
言葉が浮かんでは消えていく。私の心の奥にある、確かな傷を指し示してから。
独り言が聞かれることはなかったのか、どうやら天爛は寝ているみたいだ、そう思ったら気が緩んだ。
「雪みたい、だ……」
「……?」
「消えていくの……私も、天爛の中にある記憶ごと消えたらいいのにね……」
「……」
「そんなこと、天爛は望んでないって、……知ってる、のに」
我慢できなかった雫がふたつ、ぽたりと自分の手の甲に落ちた。
「ほんとに好きなのに、な」

「それなら、尚更……消えるな、詩羽」
「え?」
気づけば、後ろから天爛に抱きしめられていた。
「嫌なんだ。我が儘で、ごめん。でも怖いんだ。詩羽が消えてしまいそうで、怖い。失うのは嫌なんだ」

失うのは、嫌なんだ。
その言葉と同時に一層強くなった天爛の手の力が、強く心に響いた。

「消えたくないよ。消えなくていいように、したい。でも、どうしたらいいのか分からないから」
「俺は、詩羽が平気で命を差し出そうとするのが、怖い」
「……天爛」
「消えないで、そばにいて欲しい。……簡単に命を差し出してもいいなんて、思わないで欲しい」
「……う、ん」
「記憶を消させたりするもんか。こんなに好きなんだ、本当に好きなんだ。自分の感情くらい守ってみせる」
「……」
「分かってないだろ、詩羽」
ずっと答えに迷う私を見つめていた視線が、何かを考えるようにふらふらと揺れて、天爛がテーブルに手を伸ばす。
私だったら届かない距離だな、なんて思っていたら、
「ほら」
何かがきらりと煌めいて、私の口に放り込まれる。
「わ、マカロン……!」
「おいしいだろ?」
「うん!……ってこれ、」
煌めいたのは、トッピングのアラザンの欠片か、それとも。
「そう。詩羽から貰ったやつ。おいしかったよ、ありがとう」
「もう、反則……。せっかくのプレゼントだったのに」
「いいんだよ。幸せは分かち合うべきだ、って言ってたのは詩羽だろ。それに、」
そこで一旦言葉を切って、天爛は私の頬にキスをした。
「て、天爛っ……!」
「おいしい、も、嬉しい、も、幸せの欠片として詩羽にたくさん知ってもらいたいから。諦めないよ、俺」
「……うん。ありがとう、天爛」
――煌めいたのは、窓の外に輝く、雪だったのかもしれない。


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