愛の許へ行く/β
咲き匂う 桜と羽よ 爛と舞え

☆愛の許へ行/β

「……そっ、か」

詩羽からのメールを見返す。

『ごめんっ、ちょっと遅れる』

……何だ、この感情は。
胸の中を巡る謎の感情を、ぐしゃりと握りつぶすように、俺は携帯への力を強めた。

冬の風はまだ凍るように冷たくて、俺の心の中まで凍らせていくようだ。

詩羽がかっこいい、と言ってくれた、黒いコートが風になびく。

ふぅ、と息を吐く。
ここで考え込んでいても同じことだ。
詩羽が来ない限り──。

ゲームでもやっていようかと思ってリュックを探ると、詩羽から借りた本が出てきた。

「……。」

やっぱり……俺は。
一緒にいるうちに、いつの間にか、詩羽に……。

「……うた」

携帯を取り出して、恥ずかしいけれど、精一杯想いを打ち込む。

『そんなに焦らなくても大丈夫だよ』

これを見たら、詩羽は安心してくれるだろうか。
それとも、やっぱり走って来るのだろうか。

『メール送信完了』

少しは落ち着いて来て欲しい。
じゃないと、俺が心配で、不安で、いてもたってもいられなくなるから。
少しは自分のことも、気を付けて欲しい。

昨日も、『早く会いたい……大好きだよ』なんてメールを送ってきた詩羽には、そんなことは出来ないだろうけれど。
思い出して、少し照れてしまう。

詩羽が大切なのはもちろん確実だ。
だって詩羽は、俺を初めて愛してくれた女の子だから。
でも、自分の中にある感情に整理がつかなくて、その整理のつかない感情の名前が分からない。

『メール送信中』

……分からないけれど、少しでも素直に。
──少しでも、詩羽に届くように。

「……うたは」

約束の場所にくらい、とっくに着いてる。
だって、前回は詩羽が先に着いていたから。
女の子を待たせるなんて、できない。
だから、今回は俺。

「詩羽……ん?」

呟いていたら届くだろうか、そう思って名前を呟いていたら、

「詩羽!!」

本当に目の前に、詩羽が現れた。

「天爛!!」

走ってきて、詩羽が俺に抱きつく。
……やっぱり走ってきたな、今日は小走りだったけど。

「会いたかった──!!」

ふい、と反射的に目を逸らしてしまって、でも俺の手は、詩羽の頭を撫でていて。
俺の中で、少しずつ詩羽が特別になっていく。
当たり前、だよな──彼女、なんだから。

くすぐったくて、でも愛しい想いを手に、君の名前を呼ぼう。
特別な君に、整理しきれない想いと、無限大の愛を。

「詩羽」
大好きだよ、詩羽。

──天来の詩 あなたに届け


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