falling down45 | ナノ





falling down45

 クリスマス当日、ジョシュアは実家へ帰り、トビアスはレアンドロスと二人きりになった。三日前に購入したモミの木にはジョシュアとともに選んだ飾りが施されている。燭台の上に蜜蝋でできた蝋燭を置くレアンドロスの足元には、たくさんのプレゼントが並んでいた。
「おいで、ビー。火をつけよう」
 暖炉の左側、窓のそばに設置されたモミの木は、トビアスの身長よりも大きい。マッチを擦ったレアンドロスが、蝋燭の一つに火をつけた。彼はマッチ箱を渡してくれる。トビアスはマッチ棒を手にして、炎を灯した。その瞬間、誰かの声が頭に響く。
「君が灯せなくなったら、誰かが必ず灯してくれる」
 誰の言葉だろう。トビアスは炎の揺らめきを見つめた。
「ビー、火傷する」
 レアンドロスはトビアスが手にしていたマッチの炎を吹き消し、マッチ棒を暖炉へ投げ入れた。そして、もう一本、新しいマッチ棒を取り出し、炎を灯す。
「一緒に」
 そう言われて、彼の手に自分の手を添えた。黄色い蝋燭に炎が灯る。
「どうした?」
 マッチ棒を捨てたレアンドロスが、心配そうにこちらを眺める。トビアスにもどうしたのか分からない。ただ涙があふれた。彼の指先がその涙を拭い、ソファへと座らせてくれる。トビアスの指先が火傷していないか、彼は入念に確認した。
「あとは俺がする」
 レアンドロスはモミの木にある蝋燭から蝋燭へ、どんどん火を灯した。
「蜜蝋は炎の色がきれいだろう?」
 ほんの少し甘い香りのする室内で、蝋燭の炎はきれいな橙色を見せた。トビアスが頷くと、レアンドロスが笑う。以前はあまり気にならなかったのに、今は彼の笑みを見るだけで、頬が熱くなる。同じベッドで眠る時も一緒にシャワーを浴びる時も、彼を意識することが多くなった。
 隣に座ったレアンドロスが肩を抱く。テレビでは子ども向けの番組が流れていた。家族や親戚が集まり、子ども達がプレゼントを開けている。
「レアは、家に帰らなくていいの?」
 トビアスは左手を握るレアンドロスに尋ねる。
「君のいる場所が家だ」
 彼は左手の甲へキスを落とした。トビアスが真っ赤になり、視線をそらすと、「ビー、最近、こっちを見てくれないけど、もしかして」と言葉が続く。顎へ触れた指先が、下から上へと顔を持ち上げる。トビアスはブルーの瞳を一瞬だけ見た後、また視線をそらした。
「……恥ずかしい」
 トビアスが小さく言うと、レアンドロスは安堵の表情を見せた。何に対しての安堵か分からなかったが、トビアスは言葉を選ぶ。
「レアはきれいで、優しい。僕、なんかに」
「ビー、君のほうがきれいだ」
 頬に触れた手が、くちびるをなぞっていく。レアンドロスは慈しむようにこちらを見つめた後、キッチンのほうへ向かった。自分の体には無数の傷痕が残っている。彼はそれを見ても、何も言わず、時おり、傷痕にキスをしてくれることもあった。母親らしい母親ではなかった、と言っていたのは、もしかすると、この傷の原因は母親にあるのかもしれない。
「同じ養蜂場の蜂蜜酒もある。少し飲んでみるか?」
 レアンドロスはグラスに注いだ蜂蜜色の液体を見せる。飲酒は法的に問題ない年齢に達していた。だが、トビアスは酒と聞いて、頭を押さえる。
「ビー、頭が痛いのか?」
「うん」
 グラスを置いたレアンドロスが、すぐにリビングへ来た。ソファへ体を横たえる。
「顔色が悪い。苦しいところは?」
 頭が痛い以外は何もなかった。ただ、自分のために、色々としてくれるレアンドロスに申し訳なく思った。彼はセーターの下に着ているシャツのボタンを外し、ベルトも緩めてくれる。
 ジョシュアが言うように、学んだことは忘れているだけだから、ある程度のことを教えてもらえば、どんどん吸収できる。だが、今までの出来事や経験に関しては、それが自分の中にある記憶と結びつく前に、頭痛が起きた。
 テレビからクリスマスソングが流れる。モミの木の下に並ぶ色とりどりの包装紙を見た。サンタクロース宛てに、欲しいものを書いた。あの中に、トビアスが望んだものは入っていない。

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