ひみつのひ番外編2 | ナノ





ひみつのひ 番外編2

 遠峰秀崇の親友に、藤グループの長男がいる。ロシア人の祖父を持つ彼は肌の色が白く、瞳も髪も日射しの下では明るいブラウンに見えた。藤智章というのが彼の名前だが、彼は苗字で呼ばれるのを嫌う。
 智章は会社を継ぐ気がなかったが、周囲はそれを許さず、家でずいぶん窮屈な思いをしてきたらしい。外へ出ても藤グループの長男として見られるため、彼のストレスは生半可なものではなかった。
 甘やかされずに育った智章が甘えたいという願望を持つのは理解できるが、彼の性格は少し屈折していた。彼は自分を甘やかす存在ではなく、自分が甘やかせる存在に傾倒する。
 秀崇は今日も、智章が大事な彼の恋人を抱えて廊下を歩いているところを目撃した。頬を紅潮させた彼の恋人は彼の肩口に顔を埋めている。
「またいじめてるな、あれ」
 クラスメートの言葉に秀崇は苦笑した。
「菅谷もよく耐えるよな」
 智章の恋人は稔といい、心根の優しい青年だ。去年、秀崇と同室だった彼は、鍵を貸してくれたり、洗濯物をついでに持っていってくれたりと細やかな気づかいを見せてくれた。智章の周囲にはたいてい派手な人間が並ぶが、その中で彼はまったくタイプの異なる人間だった。もっとも長年、智章を知っている秀崇には、彼のようなタイプが智章の心を奪うタイプだと知っていた。だから、彼のことが気になって仕方ないと智章から聞いた時、秀崇はあまり驚かなかった。

 秀崇は稔から借りていた本を返しに行くという一輝の言葉に、自分も行くと立ち上がった。部屋の前で扉をノックすると、中から智章が出てくる。いつもはきちんとセットしている前髪が乱れていた。
「あー、渡しとく」
 一輝の手からを本を奪った智章は、こちらの話も聞かずに扉を閉めた。
「うわ、付き合い悪い」
 一輝が肩をすくめて言った。
「何だよ、あいつ。友達よりセックス、優先させたぞ?」
 秀崇は一輝の言葉に苦笑した。何となく智章の焦燥感は理解できる。周囲から求められるものが違う。自由にできるのはおそらく今のうちだけなんだろう。いつも余裕の表情で、高いハードルも当たり前のように跳んでいける彼には、彼なりの苦しみがあるに違いない。
 秀崇はどうして智章が稔にだけ苗字で呼ぶことを許しているのか分かる気がした。智章はこれから稔と生きていけるだけの力を手に入れようとしている。藤グループを担う人間として、誰にも文句を言わせなければ、稔の手を離さなければいけない状況にはならないだろう。稔に苗字で呼ばせているのは、その覚悟を彼自身へ言い聞かせるためだ。稔だけが彼を強くしている。
「ふつうがいちばんだな」
 秀崇の独り言に一輝が首を傾げる。
「何の話?」
「一輝、俺達も時間を有効に使おうか?」
「だから、何の話?」
 秀崇は恋人の手を取ると、その耳元へくちびるを寄せた。
「セックスしよっか?」
 赤く熟れた一輝の頬を指の背でなでた秀崇は、ほほ笑みを見せてから、彼の手を引いた。

番外編1 番外編3(後輩視点)

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