よあけのさき54 | ナノ





よあけのさき54

「どうして逃げる必要がある?」
 ラファルは毛布を握り締めたまま、うつむいた。アルベルトの言わんとしていることは分かる。ここを出ていくことは逃げだ。
 だが、ここは居心地がよすぎて、いつか失ってしまうのではないかという恐怖と戦わなければならない。同じように、アルベルトを受け入れたら、ルチアーノのように失うかもしれないと考えた。
「俺なんかのせいで……」
 ルチアーノのためにも生きなければならないと思う。そして、生きるなら、自分を罰するように生きなければならない。ルチアーノは幸せに笑って生きて欲しいと願ったかもしれないが、ラファルは自身がそんなふうに生きることを許せなかった。
「おまえは、俺に同情するなと言っておきながら、結局、自分が一番、自己憐憫してるって分かっているのか?」
「俺は別に自分を憐れんでなんかっ」
 言い返すために視線を上げると、痛々しそうにこちらを見るアルベルトの瞳があった。おまえになんか分かるもんか、と続けようとした言葉を飲み込む。彼は友達を失い、アンドレアの両親を死に追いやった。それがどれほど辛く、苦しいことか、ラファルには分かる。
「ラファル」
 アルベルトの手がラファルの肩をつかむ。
「おまえは悪くない。もう分かっているだろ。おまえは少しも悪くないんだ」
 ラファルは泣いていた。アルベルトの言葉を繰り返しながら、不意にアルベルトは一人ぼっちだったのかもしれないと考えた。アンドレアはいつもそばにいただろうが、ラファルは目の前のエバーグリーンの瞳の中に、深い孤独を見出していた。
 復しゅうを遂げたにもかかわらず、アルベルトは少しも嬉しそうではない。むしろ、深い森で迷った人間のように、悩んでいるように見える。おまえは悪くない、という言葉はまるでアルベルトが自分自身に言い聞かせているように聞こえた。
「アルベルト」
 おまえも悪くない、という意味を込めて、ラファルは彼の背中へ手を回した。アルベルトの緊張が伝わってくる。左胸に頭をあずけると、彼の心音が聞こえた。そっと抱き締め返してくれた手が、わずかに震えている。

 しばらく抱き合った後、視線が絡んだ。アルベルトのくちびるがまぶたに当たる。涙の筋を拭うように、彼のくちびるが下りてきた。ラファルはくちびるをなめられて、舌でなめられた部分を確認すると、彼はすぐにくちびるを奪う。
 熱い舌を絡ませながら、口内をまさぐられた。ゆっくりと押されて、ベッドの上で仰向けになる。アルベルトが大切なものを扱うように慎重な手つきで、ボタンを外す。ラファルにとってはそれが新鮮だった。そんなふうに扱われたのは初めてだった。
 衣服を脱がせるアルベルトの髪へ、おそるおそる手を伸ばして触れる。言葉もなく、彼は静かにほほ笑み、ラファルの指先をなめた。
「っン」
 アルベルトはラファルの乳首を口へ含む。開発されたそこは、舌先でもてあそばれただけで、ラファルの雄を直接刺激した。アルベルトがすぐに気づいて、下を寛げてくれる。
 ラファルは無毛の体をさらすことに抵抗があったが、アルベルトは表情を変えることなく、ラファルへキスをしながら、手でペニスを喜ばせた。そのまま手でいかせてくれるのかと体が期待する。
 アルベルトはラファルのペニスから手を離すと、体中にキスを落とし始めた。刺激がなければいけないが、乳首、首筋、脇腹、内腿と弱いところばかりを狙われて、ラファルは快感に翻弄されていた。
「っあ……も、ァアっ」
 ラファルがアルベルトの手の中で射精すると、彼はその精液で濡れた指先でラファルのアナルをほぐす。アルベルトは指先でアナルの中を確認しながら、左手でラファルの髪や顔をなでた。こんなふうに優しく前戯を受けるのは初めてで、ラファルは興奮と緊張から涙を流した。
 怖がっていると思われたのか、アルベルトがいったんアナルから指を抜いて、涙を吸い取るようにキスをくれる。彼は左手でラファルの右手を握った。
「あ、やっ、あぁ、ン、っあ」
 指の本数を増やされ、奥へ奥へと入ってくる感覚に、ラファルが身を強張らせると、アルベルトの指が前立腺をとらえた。彼はラファルのペニスが再び熱を持つまで、しばらくの間、前立腺を指で刺激した。

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