よあけのさき53 | ナノ





よあけのさき53

 身の振り方はすでに決めていた。アンドレアと一緒に食事の準備をして、庭師と仲良くなり、庭仕事を手伝うことで、ラファルは表面上、アルベルトの家で暮らすことを受け入れたように見せていた。
 マウロは時々、訪ねてきて、ランベルトの情報をくれた。彼は、アルベルトが資金面で潰しをかけ続けているため、おそらくこのまま国外へ逃げるだろうと予想していると話した。
 マウロはラファルがいずれここを出ていこうと考えていることに気づいているようだった。レンツォ達の組織やアルベルトへ恨みを抱く人間達にとって、ラファルが弱点になり得ると言う。それならば余計にここを出たほうがいいと、ラファルは思った。
 アルベルトとは同じベッドで寝ているが、彼は抱き締めるだけで何もしない。ラファルはこのまま何の進展もないことを望んだ。

「そういえば、ラファルはヴィートのこと、知っていますか?」
「ヴィート?」
 初めて聞く名前だった。食洗機から取り出した皿をアンドレアに渡すと、受け取った彼が話し出す。
「ソニアの子どもなんですけどね、全寮制の学校にいる……」
 そういえば、彼女には子どもがいた。戸籍上は彼女とランベルトの子どもだが、噂ではベルナルドの子どもだった。
「いくつなんですか?」
 十四歳、という返事にラファルはヴィートのことを考えた。
「学校が休みの時は、ここであずかっているんです」
 ラファルにはその言葉だけで、理解できた。母親は愛人とバカンス、父親はもしかすると祖父かもしれないという家庭環境はきついだろう。
「とても大人しい子なんです。ラファルなら、歳も近いので、いい友達になってくれたら、と思って」
「いつから来るんですか?」
「次はイースターの休暇だから……」
 アンドレアはちょうど二週間後だと言った。ヴィートには悪いが、ラファルは明日にでも出ていこうと思っている。そんな素振りを見せず、ラファルは頷いた。

 いつものように先に寝ていると、アルベルトがあくびをしながら、部屋へ入ってきた。
「もう寝たのか?」
 目を閉じていたため、アルベルトが問いかけてくる。ラファルは目を開けた。彼は服を脱いでいる最中だった。
 アルベルトは服を脱ぎ終わると、毛布の中へ入る。いつもならすぐにサイドチェストにある照明を消すが、今夜はひじをついて、ラファルの髪をなで始めた。おかしい、と思ったら、彼の吐息からアルコールのにおいがした。
「飲んだ?」
「少しな」
 ラファルはアルベルトの好きにさせた。目を閉じると、彼の指が頬をなでる。くちびるの形をなぞられ、目を開けると、触れるだけのキスを落とされた。
 ラファルは、最後の別れにセックスをしてもいいと考えた。どうせここを出た後、また体を売るのだ。
「俺のこと、まだ気になる?」
 アルベルトの指が止まる。
「俺とセックスしたい?」
 アルベルトの瞳に映る自分は醜い。彼を相手に必要のない媚びを売っている。彼は起き上がると、ラファルの腕を引っ張り、ベッドの上に座らせた。
「ラファル」
 アルベルトはあぐらをかくと、真剣な表情でラファルを見つめた。ラファルは一瞬だけ彼を確認して、すぐに視線をそらす。瞳を合わせることが怖かった。彼を見ることで、彼の瞳に映る自分を見ることが怖かった。
「おまえはすぐ態度に出るな」
 呆れたように言ったアルベルトが、そっとラファルのあごをつかむ。
「ここから出て、どうするつもりだ? また体を売るのか? 同じことを繰り返すのか?」
 ラファルは挑発に乗らないように黙っていた。
「……ルチアーノに顔向けできないんじゃないのか?」
「うるさいっ」
 ラファルはアルベルトの手を払い、毛布を被ろうとした。それをアルベルトが止める。

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