just the way you are 番外編13 | ナノ





just the way you are 番外編13

 ドーナツの入った袋を片手に、直太は玄関で靴を脱いだ。ただいま、と声をかけると、おかえり、とキッチンから聞こえてくる。煮込みハンバーグの香りがした。夏輝が手ぬぐいで手を拭きながら、こちらへ来ようとして足をとめる。
「あ」
 好物のドーナツへ視線を落とした夏輝が、笑みを浮かべた。ケーキよりドーナツが好きだと知ったのは最近だ。直太は彼の頬にキスをして、手土産を渡した。
「ありがとう。今日はリクエストの煮込みハンバーグとポテトサラダ」
 ネクタイを外しながら、くつくつと音を立てている鍋を見た。夏輝が鞄から弁当箱を出してくれる。
「今日もごちそうさまでした」
 そう言うと、夏輝は小さく笑った。
「着替えてきます」
 寝室のクローゼットを開き、着替えを済ませる。シェードランプで照らされた部屋には、大きなダブルベッドが置いてあった。今朝、起きた時のシーツやかけ布団の乱れは整えられている。洗濯された衣服にはアイロンがあてられ、下着はきちんとクローゼットの中にある引き出しにしまわれていた。
「ポテトサラダに少しだけ、ガーリックチップ入れてみた」
 楕円形の深皿にハンバーグを二つ入れて、ポテトサラダを付けあわせる。直太は夏輝の肩を抱くようにして、彼の体へ触れた。定食屋のアルバイトを続けながら、家事のほとんどを引き受けてくれる彼に感謝のキスを繰り返す。
「なお、俺はおなか、すいてる」
 夏輝はそう言って、首のまわりに絡んだ直太の腕を解いた。かわりに、深皿を渡される。リビングダイニングの家具は少しずつ増えた。テーブルに並べた後、彼が茶碗を二つ持ってくる。
「今日は御堂さんが食べに来た」
 夏輝の話を聞きながら、直太は職場で内示された話を、どう切り出すか考える。社会人になって三年が経ち、七月から大阪支社で一年、学んでこいと言われていた。その場で受諾する以外なかった。弁当を作ってくれる相手がいることは知られているが、同性であることはもちろん伝えていない。だから、期間限定の遠距離恋愛か、これを機に結婚したらどうかと言われた。
 夏輝をここに残しても、安全だと確信している。彼が友則を許したから、直太もそれに従った。だが、実際には御堂に頼んで、友則へ脅しをかけてもらった。もう二度と、夏輝が傷つかないように、彼の場所を奪われないために、内緒で決めたことだった。
 一緒について来てほしいと思う反面、頑張って続けているアルバイトを辞めさせるのか、と悩んだ。それでも、こうして二人でいると、離れたくないという気持ちがわき上がる。
「なお? さっきから黙ってるけど、考え事?」
 夏輝に問われて、直太は口を開いた。
「大阪にある支社に行くことになったんです」
「そうなんだ。いつから?」
「七月から一年間です」
 夏輝はポテトサラダを頬張りながら、頷く。
「七月から一年か……い、一年?」
 今度は直太が頷いた。うつむいた夏輝は、箸をテーブルへ置いた。直太は小さく息を吸う。
「夏輝さん、一緒に来てほしいって思ってるんですけど」
 一緒に来い、と言えず、最後のほうは消え入りそうな声になった。だが、顔を上げた夏輝の表情で直太は安堵する。
「当たり前だろ。俺のそばにずっといるって言ったんだから、離れるの、なし」
 ほんの少し怒り気味で、だが、少しだけ恥ずかしげに言った夏輝はかわいい。直太は右手を伸ばして、彼の左手へ重ねた。
「バイト、辞めないといけなくなるから、俺のせいで、夏輝さんが築いたものを手放すの、嫌だなって思って」
 夏輝は左手へ視線を落としてから、こちらを見つめた。
「俺が築いたものを守ってくれる人のこと、手放したりしない」
 とても小さな声で、夏輝はそう言って、直太の右手を握り締めた。直太はその手を握り返して、少し恥ずかしそうに、だが、とても幸せそうに笑う彼にほほ笑みを向けた。


番外編12

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