just the way you are 番外編11 | ナノ





just the way you are 番外編11

 あれほど傷つけられたのに、簡単に手放すのかと思った。だが、夏輝にとって、金は重要なものではないのだと理解した。自惚れではなく、彼は自分との暮らしを少しでも長く守りたいと考えて、そのためなら金はどうでもいいと手放したのだろう。
 自分についた嘘をどう説明しようか、うつむいて考えている夏輝のことが愛しい。SDカードのデータを見た御堂は、選択権は夏輝にあると話した上で、自分だったら、友則を殺していると言った。
 直太は通帳を握り、こみ上げてくる怒りを抑えるために、目を閉じる。十まで数えて、目を開けた後、夏輝の名前を呼んだ。彼がこちらへ視線を向ける。
「通帳と暗証番号だけじゃ、引き出せないって、あいつ、知らなかったんですね」
 わざと笑った。夏輝は少し瞳をうるませて、それから、決意したように口を開く。
「ごめん。俺、そのお金を渡せば、しばらくの間は二人で暮らせるって思って。それに、もし、呼び出されても、ちゃんと対処できるって思ってた」
 直太は頷く。
「でも、できてなくて、俺、ほんと、なおに迷惑ばっかりかけて、ごめん」
 謝罪で始まって終わった夏輝の言葉を聞き、直太はもう一度、頷く。
「それでも、先輩は俺なしじゃ生きていけないし、俺も先輩なしじゃ生きていけないから、お互い様ってことです」
 夏輝の黒い瞳から涙があふれた。直太はSDカードを指先でつかんだ。小さな音がして、カードが割れる。
「これは消えても、あいつの口から先輩の名前が出たり、もしかしたら、誰かにコピーを送ってたりするかもしれません。御堂さんに頼めば、警察に引き渡さずに処理できるって言ってました」
 夏輝が涙を拭いながら、「殺すってこと?」と尋ねてくる。
「たぶん」
「そんなの、できない」
 直太が思っていた以上に、夏輝の返答は早かった。
「俺の気持ちひとつで、誰かの命を奪うなんてできない」
「誰かの命じゃないです。夏輝先輩を苦しめて、あいつは、あなたを刺した人間です」
 直太は怒りをこらえて、冷静に言った。直太自身、殺していいとは思っていない。だが、夏輝が彼に対して怒りを見せないから、怖くなる。あいつに殺されてもいいと思っているのではないかと疑ってしまう。
「俺を苦しめた人、全員を殺すなんてできないし、そんなことのために生きたくない。それに、俺、死ななかった。なおが助けに来てくれたから。あの夜からずっと、俺は幸せだから」
 あの夜というのは、夏輝を初めて抱いた夜のことだ。週末しか会えなかった頃、直太は夏輝が一人で何日もの夜を越すことを心配していた。だが、彼はあの夜からすべて変わったと言った。自分にも愛してくれる人がいる、と思うだけで強くなれると言った。
 直太は夏輝の隣へ行き、彼のことを抱える。まだ食事の途中だったが、月明かりの入る寝室のベッドへ彼を寝かせた。服を脱がせようとすると、彼のほうから脱ぎ始める。直太は指先に潤滑ジェルをつけてから、夏輝のアナルの具合を確かめた。まだ少し腫れているが、こちらを見つめる彼は頷く。
 痛みを与えないように、慎重に指を増やした。三本目が入り、少し慣れてきてから、直太はペニスへにコンドームを被せた。右手とペニスで探りながら、左手は夏輝の右手を握る。ゆっくりと彼のアナルへ挿入すると、彼は呼吸を忘れたように、息をとめた。
「夏輝先輩」
 呼びかけてキスをすると、彼のくちびるから小さく息が吐かれていく。直太は夏輝の中を味わうように静かに動いた。開いたくちびるから漏れる声を聞き、その首筋やこめかみにくちびるをあてる。右手で彼の脇腹をそっとなでた。
「ッん」
 泣きながら、こちらを見上げてきた夏輝が両手を伸ばす。
「なおっ、なおだけだから」
 絡んだ腕の中、その言葉を耳元で聞き、直太は夏輝を何度も突き上げた。先ほど感じた恐怖も疑いも消えていく。
「なつき、せんぱい、だいすきです、あいしてます」
 射精しながら、小声で伝えると、夏輝からも同じ言葉が返ってくる。直太は彼を抱き締める前に、指先で彼の頭から頬、顎をたどり、彼の輪郭を追った。彼は小さく笑って、「それ、されるのすごく好き」とつぶやいた。


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