just the way you are 番外編9 | ナノ





just the way you are 番外編9

 午前中の講義を受けた後、買い物をしてから家路に着いた。コンシェルジュの前を通り、エレベーターホールへ進む。中庭はガラス張りで光があふれていた。今年の梅雨は降雨量が少ない、と今朝見ていたニュースの言葉を思い出す。
 御堂と契約した部屋は、最上階から一つ下の階にある。御堂と金沢は隣の部屋とメゾネットにした最上階部分に住んでいた。
 夏輝を苦しめる相手から、データを奪いたい。夏輝のためにセキュリティがしっかりした部屋を五万で借りたい。単刀直入に希望を言ったら、御堂は怒りも笑みも見せず、服を脱げと命令した。冗談ではないことは、直太が一番よく理解していた。どんなに思案しても、頼ることができる人間は彼しかいない。そして、自分が言った望みを叶えるには大金が必要だったが、相手の示す額を払うことはできない。
 だから、御堂が体を使って払えと言うなら、それでもいいと思った。実際、服を脱いでいる間、直太は夏輝がどんな気持ちで耐えてきたのか考えていた。彼を守るためなら、何でもできる。覚悟して、御堂を見返すと、彼は直太の全身をじっくりと見つめてから、口を開いた。
「愛してるんだな、本気で」
 その言葉に直太は頷いた。服を着ろと言われて、ソファに置いた衣服を身につけた。手配しておく、と告げた後、御堂はスマートフォンを操作して電話をかけ始めた。手で追い払う仕草を見て、直太は彼の職場を後にした。
 あの日以来、礼も言えないままだ。金沢は気にしなくていいと言うが、隣に住んでいるにもかかわらず、フロアで会うこともない。
 エレベーターから降りて、カードキーで玄関扉を開けようと、買い物袋をいったん置いた。夏輝は一昨日、被害届を出した。昨日、退院して、この部屋へ連れ帰ってから、今朝までずっと眠っていた。冷蔵庫に必要最低限の物はそろえていたが、彼にはおかゆやうどんを与えたほうがいいと思い、色々と買いこんだ。
「ただいま」
 靴を脱いでいると、奥から夏輝が出てきた。
「先輩」
 まだアザは痛々しく見え、顔色も悪い。
「おかえり」
 夏輝は左手で脇腹に軽く触れていた。痛むのか問いかける前に、彼は手を伸ばし、買い物袋をつかむ。
「重いから、いいですよ」
 直太は買い物袋を提げたまま、キッチンへ向かった。リビングダイニングにあるテーブルは、何度見ても笑ってしまう。
「部屋のサイズと合ってないな」
 夏輝も笑い、フローリングの床へ座る。
「寒くないですか?」
 今朝、出かける時に入れていたエアコンを調整する。リビングダイニングとベッドルームだけは、除湿にしていた。ベッドルームのほうは、夏輝がすでに切っており、直太はベッドの上からクッションを取って、夏輝へ渡した。また左手を脇腹へあてた。心配になり、彼の隣へあぐらをかいて、彼の手の上から脇腹を軽く押さえる。
「……うずくみたいな痛みがあって、気持ち悪い」
 小さな声だったが、直太にはよく聞こえた。そっと自分のほうへ抱き寄せて、うしろから抱きしめる。
「すごく疲れた。でも、寝てる間は、夢、見てて、それが……嫌な夢で、起きると痛いし、眠ろうと思うけど、怖くて」
 警察の事情聴取は病院で行われた。談話室と書かれた半個室のような部屋から出てきた夏輝を見て、彼がきちんと話したと分かった。だが、警察官はこちらを軽蔑するような視線を送ってきた。被害届を出しても、捜査してくれるかどうか分からない。傷害事件ではなく、強盗傷害だと思ったが、直太は何も言わなかった。あの時、夏輝は立っていることすら辛そうで、すぐに寝かせてやりたかった。
 今もそうだ。直太は夏輝のシャツをめくり、右手で左の脇腹へ触れた。傷口は開いていないが、周囲は青紫色になっている。
「そばにいます。夏輝先輩、目を閉じてください。ずっとそばにいます」
 しばらくすると、夏輝は頭と上半身をあずけてきた。彼の脇腹をさすり、彼が完全に眠るまで待った。


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