never let me go43 | ナノ





never let me go43

 泣き声で目が覚めた。またマリウスの首を絞めているのかと飛び起きた。ディノは広いベッドに一人きりだ。クローゼットの奥に蹲るマリウスを視界に入れ、怖い夢でも見たのか、と声をかける。
「マリウス」
 ごめんなさい、と謝罪を口にした後、マリウスは許しを請うた。それから、お仕置きは嫌だと泣き続ける。ディノはベッドの上を確認した。粗相をしたわけではない。
「怒ってない。お仕置きなんてしない。出ておいで」
 優しく声をかけても、マリウスは泣いて許しを請い続けた。ディノは一度キッチンへ行き、彼のためにペットボトルのミネラルウォーターへストローを入れる。名前を呼んでも、彼はまだ激しく泣いていた。最近は落ち着いていて、すっかり忘れていたが、この泣き方はここへ来た当時の泣き方だった。
 もう一度、名前で呼びかける。
「何も悪いこと、してないだろう? それとも、どこか痛いのか?」
 暗闇の中から少しだけ顔をのぞかせたマリウスは、乱れた呼吸のまま、ごめんなさい、と繰り返した。ディノは両手を伸ばして、おいで、と声をかける。マリウスが泣き腫らしたまぶたを擦り、周囲を確認する。ディノは彼の思考を先読みして安心させた。
「大丈夫。知ってるだろう? ここには俺達しかいない」
 まだしゃっくりのような呼吸を繰り返しながら、マリウスが頷く。
「おいで」
 左の太股をたたき、ディノは足の間に座るよう示した。マリウスは少しずつ、クローゼットから出てくる。シャツから伸びている腕や手に異変はなく、ようやく腕の中におさまってくれた彼の足にも怪我はなかった。ディノは安堵して、腫れている彼のまぶたへ軽くキスを落とす。
「おまえは謝らなくていい」
 これから最期の瞬間まで、謝り続けても足りないのは、自分のほうだとディノは考えた。献身的だと評されたとしても、これは償いではなく、ただの自己満足に過ぎない。マリウスが奇跡的に歩けるようになっても、記憶を取り戻しても、取り戻さなくても、ディノには以前の彼の生活を与えることができないからだ。
「ンっ」
 苦しそうな声を漏らしたマリウスが、股間を押さえ込む。
「どうした?」
 ディノは股間を押さえ込んだまま、かすかに体を動かすマリウスを見る。彼の手に触れると、強い力で中心をつかんでいた。
「マリウス?」
 右手でマリウスの内股へ触れて、ディノはようやく気づいた。トランクスと肌を濡らしている液体は精液だった。彼の手首をつかみ、ディノは静かに声をかける。
「大丈夫だから、手を放せ」
 マリウスは首を横に振る。
「おこる……おしおき、いや」
 また泣き始めた彼の髪をなで、ディノはその頬へキスをする。
「これは出さないといけないから出てきたんだ」
 ディノは自分自身の処理をたやすく行なっていたが、マリウスの精神年齢がいくつであれ、彼の体はすでに大人であることを忘れていた。少しずつ緩んだ彼の手に代わり、ディノはトランクスの中へ右手を入れる。すでにたち上がっている彼のペニスへ手を伸ばすと、彼は両手でディノの左腕をつかんだ。
 悪いことではない、とマリウスの耳元でささやきながら、右手を動かす。すでに一度、射精している彼のペニスは滑りよく、ニ、三度擦るように動かせば、また精を吐き出した。泣き始める彼をなだめて、キスを繰り返す。
「いっても、誰も怒らないだろう? 誰もお仕置きに来ない。おまえはただ感じるだけでいいんだよ」
 マリウスのペニスは少しかたくなり、少量だったが、もう一度、絶頂に震えた。泣きやんだ彼はすべてをあずけるように、ディノの胸元へ頬を押しつけてくる。腫れたまぶたも上気した頬も愛らしく、ディノは何度もくちびるで彼の髪や額へも触れた。
「ディノ……」
 小さな声を聞き逃さず、ディノはマリウスのくちびるが紡ぐ言葉を待った。だが、彼はどう表現していいのか分からない様子で、もう一度、ディノの名前を繰り返しただけだった。


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