never let me go20 | ナノ





never let me go20

 スイートルームに通されたマウロは、まだ場所は特定していない、と前置きした上で、一つ目のUSBメモリを渡した。フェデリコはうしろに立っていた部下からノートパソコンを受け取り、さっそく中身を確認していく。
「へぇ、指名手配書の写真より、ずっと美人だな」
 集めた画像を見ているフェデリコに、「知り合いじゃないのか?」、と聞いた。彼は頷き、少しずつ目を細めていった。
「もう一つのデータは?」
 マウロが驚いてフェデリコを見ると、彼は口角を上げた。
「おまえが大金払って焼かせたデータがあるだろ?」
 彼はわざとらしく手のひらをこちらへ向けた。
「情報屋、雇った意味あるのか?」
 マウロはポケットから二つ目のUSBメモリも取り出した。だが、渡す前に聞かなければならないことがあった。
「知り合いじゃないんだな?」
「あぁ」
「本当に?」
「会ったこともなければ、俺は彼を知らないし、彼も俺を知らない」
「じゃ、何で依頼したんだ?」
 強引にUSBメモリを奪ったフェデリコは、調査書データの入ったUSBメモリと交換した。
「俺の大事な奴の大事な……」
 開始三分ほどでディスプレイを閉じたフェデリコは、ブルーの瞳を光らせた。
「おまえら、少しだけ外せ」
 部下達をメインルームから出した後、彼は再度、映像データを再生し始めた。
「セレーニ家にはもういないな」
「……あぁ、おそらく、ここか、ここ、あるいは」
 マウロはメモ帳を見せて、フェデリコへ示した。彼は溜息をつき、両手で顔を覆った後、指の間からこちらを見た。
「あいつ、全員、殺すかもしれない」
「え?」
 フェデリコは映像を凝視してから、「ソットマーレだ」とつぶやいた。セレーニ家が資金援助している高級クラブの名前だ。
「地下に会員制のバーがある。そのさらに下だ」
 ソットマーレにはマウロも何度か入ったことがあった。偽名だが会員にもなっているため、バーに入ることは簡単だろう。だが、さらに地下へ続く道があるような造りには見えなかった。
「最後のデータが四日前か」
 フェデリコは部下を呼び戻し、小切手を切った。約束の額の倍だ。
「助かった。やっぱりおまえに頼んで正解だったな」
 USBメモリを抜き、ポケットチーフへ包んだフェデリコは、屈託のない笑みを浮かべて礼を述べた。マウロも感謝の言葉を口にしたが、正直な思いとして、この青年はもういないのでないかと懸念していた。
 その心配が表情に出たらしく、フェデリコが口を開いた。
「セレーニ家のアレッシオはな、ある殺し屋を恨んでいる。だが、あれは恨みというより、陶酔にも近い執着ぶりだ。常軌を逸した変態野郎が、殺し屋の気を引いた青年をあっさり殺すと思うか?」
 ソファから立ち上がったフェデリコは、「これも向こうの作戦のうちかもな」、と笑った。わざと映像データを焼かせた、ということだ。確かにうまくいくかどうかは大きな賭けだったが、そう言われると、うまくいきすぎている気もした。
「それ、そいつに見せるのか?」
「おまえなら、見たいか?」
 マウロは弟のことを思い出した。もし、彼が辱められた時の映像があるなら、と考えた。
「俺だったら、見る。見る権利と義務、どちらもあるからな」

 自宅へ車を走らせながら、マウロは知り合いの情報屋へ電話をした。セレーニ家に因縁のある殺し屋とは誰なのか知りたかった。名前を聞いて、すぐに思い出した。アレッシオにとっては、忘れられない男だろう。彼はアレッシオの目の前で父親を殺したと噂になっていた。
「ディミトリ」
 その名以外に何も出てこない、情報屋の間でも有名な男だった。


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