エウロパのうみ20 | ナノ





エウロパのうみ20

 善がかすかに笑う。
「時和君だって、振ったよ」
 時和は、そうだった、と息を吐く。爪楊枝の先からオリーブをかじり、タリスカーを一口飲んだ。傷つけられてばかりだ、と考えていたが、実際は自分も誰かを傷つけている。善の長い指先が頬に伸びてきても、時和は振り払わなかった。
 彼女と付き合いながら、自分とも寝るのはおかしいと言えたらいいのに、と思う。だが、周囲はおかしいのは時和だと言う。高校の時もそうだ。キスをした後から、時和を避け始めた明達を見て、勘のいい女子達は明達を惑わすな、という主旨の言葉を投げつけてきた。
 自分が原因で明達を悩ませ、そして今、彼がどういう理由からにしても、自分を抱いてくれるなら、心にくすぶる不満はしまい込んでおくべきだ。目の前で頬を優しくなでてくれる善に対してもそうだ。彼の好意を受け入れられない、その申し訳なさで時和は視線を落とす。
 善の手が太股へ触れた。アルコールのせいか、体が熱く、彼が触れたところも熱を持っていく気がした。視線を上げて彼を見ると、情熱に燃える彼の瞳に射抜かれる。
「よ、善さ、俺……」
 恋人がいます、と続けられなかった。くちびるを奪われる。嫌悪感はないが、時和は焦っていた。ジーンズの上から股間をなでられたからだ。達明とは異なり、善はすべてを熟知している。ソファへ押し倒され、息苦しいと感じるほどのキスが終わった時、時和は喘いだ。彼のくちびるは首筋をたどり、ジーンズを脱がされる。
 善はゆっくりと下着を下ろし、指先で時和のペニスをなぶる。その間も彼は、くちびるや舌で愛撫をくれた。そんなふうに時間をかけて前戯を受けるのは初めてで、善が体をずらして口でペニスをくわえた時も、時和にできたのは声を漏らし、喘ぐことだけだった。
「っあ、よ、しさ……ン」
 時和は手を伸ばし、善の肩へ触れようとした。だが、届いたのは彼の髪までだ。肩を震わせ、快感にすべてを流されてしまいそうになる。シャワーを浴びていない体なのに、彼はためらいなく、時和の肌をなめ、ペニスをくわえていた。
「や、っも、ゥ、ンっ」
 明達との時には得られない気持ちよさに、時和は目を閉じ、喉を鳴らした。いく、と音にする前には、善の口の中へ精を放っていた。余韻に浸らずに、時和は慌てて、謝る。ティッシュを探したが、見当たらず、彼は涼しげな表情のまま、すべてを飲み込んだ。それがどんなものなのか、時和はよく知っている。彼女は嫌がるから、と明達に言われるまま、時和は口淫もしていた。
 ジャズはいつの間にか、ゆっくりとした曲調に変わっていた。善は指先でくちびるを拭い、時和のジーンズを元に戻してくれる。
「善さん、あの、俺……」
 まるで射精と一緒にアルコールまで出しつくしたみたいだった。酔いは覚め、どうして、と自問自答する。善はショットグラスの中身を一気にあおり、時和の自問にこたえを示した。
「無防備だよ」
 責める言葉ではないのに、時和は淫らだと言われた気持ちになる。
「彼とうまくいってないだろう?」
「そんなこと、ない、です」
 きちんとソファに座り直した時和も、残っていたタリスカーを飲みほす。
「彼と再会した時は、すごく嬉しそうに話してたのに、付き合ってからの話をする時は、辛そうに見える」
 うつむこうとした時和の顎に、善が触れた。
「ここへ来たのも、さっき抵抗しなかったのも、時和君自身、満たされてないからだよ」
 善の示したこたえは、時和が認めたくはない感情だった。


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