walou番外編12 | ナノ





walou番外編12

「エク!」
 イハブはすぐに上着をかけてやろうとしたが、ラウリを抱えていたため動けなかった。エクの傷痕だらけの体を見た村人達が息を飲む。
「昨日、イハブ様に温泉へ入るなと言ったのは誰?」
 それが誰か、エクは知っているようだ。彼のほうを射るように見つめている。
「それから、入って欲しくないって、言葉にはしなかったけど、そう思った人は?」
 エクの美しい緑色の瞳からは、涙があふれ、彼の視線を受けた村人達は、ゆっくりと視線を落とす。
「イハブ様の肌の色が違うから、同じ温泉に入れないって言うなら、僕達もマムーン前皇帝と同じだ。彼のように残酷なことはしてないって思ってる? だけど、僕を見て。僕は前皇帝から何かされたわけじゃない。彼のように考える人間から、この扱いを受けた」
 イハブは自分に見せたくないと言ったエクが、自分のために大勢の前で傷痕をさらす姿に、必死になって涙をこらえた。皆の視線が遠慮がちに、彼の傷痕を確かめている。イハブはラウリを隣の女性へあずけ、自分の上着を脱いだ。
「イハブ様が昨日受けた傷痕は見えない。だから、皆に僕の傷痕を見せてるんだよ、どういうことか分かるだろう?」
 細く小さな肩が震えていた。イハブはエクへ上着をかけて抱き締める。
「イハブ様に、ちゃんと、謝って」
 エクの声は悲しみと怒りを絞り出したような音だった。
「ちゃんと、謝って、イハブ様は、僕の伴侶だ」
 こちらを振り返ったエクが、「ごめんなさい」と謝罪した時、イハブはこらえきれず、「もういい!」と叫んだ。
「ごめ、なさい、イハブ様、僕らの、しきたり、や文化に、敬意をはらっ、てくれるのに、一生けんめ、い、学んでくれるのに、こんなふう、にきょぜつして、うけいれられな、くて……」
 イハブにはその言葉が、まだ夜の営みを受け入れられない自分達の関係をも含むのだと理解した。そんなことを気にかけていたのか、と抱き締める腕に力が入る。
「いいんだ、エク。待つから。気にしなくていい」
 エクの耳元でささやき、視線から守るように抱き込む。
 その場で謝罪を受けることはなかったが、イハブは後日、湯浴みに来ていた男達とともに蒸留酒を持ち寄り、明け方近くまで歓迎を受けた。酔いを覚ますため、皆で温泉へ行き、朝陽が昇る中、帰宅した。
 眠そうな目をしたまま、迎えてくれたエクに、皆で飲んだ後、温泉に入ったと伝えると、彼は笑みを浮かべて、抱きついてきた。胸のあたりに頬を押しつけてくる彼が愛しくて、イハブは陽の光が射す中、初めて彼を抱いた。

「エク……」
 起こすつもりはなかった。うっすらと目を開き、エクがこちらを見上げる。
「あ、イハブ様、僕、また寝てしまいました?」
 行為の後、エクはそのまま眠ってしまうことが多い。本人は気にしているが、イハブは何とも思っていなかった。
「俺も今から寝るところだ」
 一本だけ残して、蝋燭の炎を消し、イハブは寝転ぶ。エクの体を抱き寄せると、彼は腕の中へおさまった。すぐに眠ってしまったエクの体温を感じ、息づかいを聞く。
 眠りに落ちながら、イハブはエクも自分と同じ気持ちでいてくれたらいいと願う。少し体を動かし、エクの髪へくちづけた。エリクのために焼いてやれ、と言ったが、エクの焼くラズベリーパイはイハブの好物でもある。
 診療所で仕事をしている時、奥から香るパイのにおいや、エクやラウリの笑い声に、泣きそうになるほど幸せを感じる。望郷心を真に理解することはできないと思っていた。だが、イハブはようやく、守るべき、帰るべき場所を手に入れた。

番外編11 番外編13(番外編12から約10年後/ラウリ視点)

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