ひみつのひ11 | ナノ





ひみつのひ11

 智章が先に出ていった。少しでも足を動かすと、振動がペニスへ伝わり、先走りで濡れた先端を擦られて泣きそうになる。
「藤、ムリだ。歩けない、お願いだから、取って」
 稔は個室を出て、レストルームの外にいた藤の腕にすがる。
「映画館までこのまま歩いて。できないなら、縛ってスイッチ入れたまま、そこに放置するよ?」
 頬を流れる涙の量が増える。
「藤っ、おね、おねが、い。何でもする、だから、取って」
 嗚咽を漏らしながら、懇願すると、智章は面倒そうに溜息をつき稔へと近づいた。
「何でも?」
 うつむいていた稔の顔をのぞき込み、智章が確認する。稔は何度も頷いた。鞄の中から携帯電話を取りだした智章は、それを左耳に当てながら、右手の親指で稔のくちびるをなでた。
「あ、秀崇? 悪い。うん。いや、すがっちがさ、風邪引いてたらしくて、うん、そう。うん。了解」
 ぱたんとフラップを閉じた音が聞こえて、稔は少し顔を上げた。口元は笑っているのに、智章の瞳は真剣で冷たい。視線をそらせなくなる。
 人当たりがよく、人気者で頭がいい。自分とは正反対の智章に嫌われている。秀崇に話しかけるように気さくに、一輝に笑いかけるような優しさを、どうして自分には向けてくれないのか。稔はただ苦しくて、智章のモスグリーンのシャツの裾をつかんだ。
「藤、もっ」
 裾をつかんだまま、稔はその場にひざをついた。鞄の中に入った智章の手を見た後、小さく喘ぐ。
「あー、いっちゃった?」
 稔はくちびるをかみ締めて、声を殺す。ペニスに装着されたオナホールはまだ小刻みに動いていた。
「立って。みっともなく座ってるなら、このままおいていくよ?」
 稔が智章を見上げると、彼は裾をつかんでいる稔の手を払った。そして、本当にスイッチを入れたまま背を向けて歩きだす。
「ふ、藤っ」
 稔は左手で股間を押さえた。このままここに放置されたくないと思った。もう一度、個室に入って自分でオナホールを外すことを考えられないくらい、智章の背中を追っていた。
「待って!」
 亀頭部分が擦られると、腰から背筋まで甘い快感が走る。稔はそれに飲み込まれないよう、必死に意識を集中する。先ほどとは違い、もう外に出ている。誰も稔を見ていないが、稔はたくさんの視線を感じた。それもすべて股間に注がれている気がするのだ。
 そう思ってしまうと、オナホールをつけていることがばれてしまうんじゃないかと、気が気でない。いつの間にか智章を見失い、振動は止まっていた。稔は不自然に大きくなっている股間から左の太股を隠すために、薄手の上着を脱いだ。
 上着を左手に巻き、そっと前で持っているように見せる。視線は智章を探した。まさか、本当においていったんだろうか。稔は不安でたまらなくなり、ポケットから携帯電話を取りだす。だが、智章の番号は登録されていない。自分達は友達ですらなかった。
 信号が変わり、人に押される。少し動いただけで、振動が伝わり声が漏れそうになる。泣きだすわけにもいかず、稔は途方に暮れた。

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