vanish番外編7
修は人が痛いと言う時、痛いと言わずに笑うタイプだ。涙はめったに見せない。タカは修のことを抱き締めながら、同じような過ちばかり犯していると思った。修の時もろくに話も聞かずに追い出し、慎也の時も怪しんだ要司に大丈夫と言って、連れていかせた。慎也が何か言おうとしたように、修も何か言いたかったことがあったのに、追い出した。
「……しばらくここにいてもいい？ あったかくなるくらいまで」
肩口でささやく修に、タカは頷いた。
「遅いんだよ、帰ってくんのが」
タカは修の右手の人指し指にある指輪へ指先で触れた。右手で修の傷んだ髪をなでて、そのくちびるへキスをする。くちびるをうなじから首すじへ動かした時、柔らかな石けんの香りがした。背中へ手を回して、肩甲骨のそばをなでた後、背筋から尻の方へ指先を落とす。
「体、担保にしなくていいって言ったくせに」
小さく笑いながら言った修の言葉に、タカはこつんと額を合わせる。
「馬鹿。おまえは無条件にここにいていいんだから、担保なんかいらねぇよ」
これは担保じゃない、と続けて、タカは修の体を持ち上げた。そっと布団の上に落とし、服を脱がせる。
「スポーツなら合意しないよ」
互いに全裸になったところで、修が言った。タカは噛みつくように修のくちびるにキスをして、それから首筋や胸にキスを続けていく。一度動きを止めてから、小さく震えている修の体へ触れた。軽くたち上がっているペニスを舌でなめると、驚いたのか、修が体を起こした。
「な、な、何して……」
「スポーツじゃないからな」
タカは修のペニスを口へ含み、くちびるで強くはむようにして上下に動かした。修はすることはいとわないくせに、されることを嫌がる。だが、本当は嫌がっているのではなくて、恥ずかしがっているだけだということを知っていた。完全に勃起させてから、刺激を小さくして、タカは自分のペニスへゴムをつけた。修の先走りを指先に絡めて、彼のアナルへ指を入れる。
「っ……あ、ン」
アナルの中は熱く、タカの指を締めつけてきた。もう少しジェルを足そうと、指を抜くと、修が長い息を吐きながら言う。
「もういいから、すぐに来て」
そんなふうに言われたら、すぐに入れたくなるが、タカは冷静にもう一度指を入れた。人差し指と中指の二本をばらばらに動かしながら、アナルを解していく。修の前立腺はわざと外した。そこを刺激すれば、修は先に一回射精することになるだろう。
タカは修のアナルから指を抜き、ようやく自分のペニスを挿入した。
「っあ、アアァ、ひ……ア、タカっ、貴和（タカカズ）」
一気に奥まで押し込んだ後、タカは腰を引いた。自分の下で修が快感に悶えながら、自分だけの名前を呼んでくれる。深く奥まで突くと、修は彼の腹の上に射精した。タカはいきそうになるのをこらえて、修の両足をつかんで引く。嬌声を上げた修のペニスはまた緩くたち上がっていた。
自分の胸の上に倒れてきた修を受け止めたタカは、息を乱している修の髪をなでた。
「わ、おまえ、もう動くな」
まだ修のアナルに入ったままのペニスが、修の動きに合わせて持っていかれそうになる。修は小さく笑うと、腹筋に力を入れたり、抜いたりした。
「こら、やめろって」
修の体を持ち上げて、自分の左側へ軽く投げると、乱暴者、と罵られる。
「おまえが悪いんだろう」
タカはもうあまり意味のない外れかかっているゴムを外して、ティッシュにくるんだ。
「やっぱり、タカとがいちばん相性いい」
修はタカへ飛びつく格好になり、汗で濡れている体を合わせた。
「それ、褒められてない。嬉しくねぇ」
それでも、タカはしっかりと修の体を抱きとめていた。
「なぁ」
「何？」
「俺、馬鹿だからさ、おまえからの合図、見落とすかもしれない。もし今度、不安になることがあったら、分かりにくい方法で試さないで、言葉で言ってくれ」
タカは修の体を抱き締めた。いつまで経っても返事がない。寝ているのかと思って、そっと彼を見ると、彼は泣いていた。タカは見ないふりをして、もう一度ぎゅっと抱き締める。
「俺って面倒なタイプだね」
涙声の修にタカは頷いた。
「そんで、俺の好きなタイプなんだよな」
タカは修の涙声が笑い声に変わっていくのを聞いて、ほほ笑んだ。おかえり、を言おうかと思ったが、言わなかった。これから、毎日、彼から聞く言葉だと思ったからだった。
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