vanish それから4 | ナノ





vanish それから4

 髪に触れてきた要司の手が、そっと頬をなでた。視線を向けると彼は笑みを浮かべる。
「慎也、おまえが何を怖がってたのか、やっと分かった。話してくれてありがとうな」
 要司は労るように体を抱き締めてくれる。彼は慎也の髪にくちびるを寄せ、キスをしながら言った。
「俺さ、本当に好きだった子とはやったことない。後腐れない、一夜限りで済むような、そういうセックスしかしたことないんだ。だから、おまえにこういうこと言うの、おかしいかもしれねぇけど、慎也、本当に好きな人とエッチしたことあるか?」
 要司はもちろん答を知っている。慎也がないと言う前に彼は続きを話した。
「ないよな? 俺もない。そういう意味じゃ、俺達、初めて同士だろ」
 音を立てるキスの後、なだめるように要司の手が背中をさする。慎也は泣きやんで、自ら上の服も脱いだ。できるところまでやってみるという意思表示だった。
 慎也は体を仰向けにして、寝転ぶ。要司がコンドームと潤滑ジェルを取ってくると言って、一度二階へ上がった。彼はすぐに下りてきて、優しく慎也の肌に触れた。言葉がなくても、瞳や手の平から、自分をどう思っているのか伝わってくる。
 勃起したぺニス同士が触れ合い、先走りで互いの腹が汚れる頃、要司が確認するかのように、一度手を止めた。慎也は潤んだ瞳を要司へ向ける。うまくできなかったら、という思いは彼が指にジェルを絡めて、アナルへ触れた瞬間に消えた。
 久しぶりの感覚に体を強張らせると、すぐに要司が気づいて、彼の左手で慎也の右手を握ってくれる。要司は入念にアナルを解してくれた。前立腺を見つけると、そこを刺激しながら、何度もくちびるや首筋、そして、脇腹へキスをくれる。慎也はそれだけでいきそうになり、涙ぐんだ。
「よ、よう、じさん、もう、きて」
 息を切らせながら懇願すると、要司が彼の勃起しているペニスにコンドームを被せた。彼がぎりぎりの理性で、慎也の様子を確認しながら、アナルへペニスを入れてくる。痛みはないが、圧迫感が大きく、慎也は数度、深呼吸を繰り返した。
「慎也」
 目を開くと、自分の上で瞳を潤ませている要司がいた。その表情を見た瞬間、慎也は胸に込み上げてくる思いに泣いた。彼がゆっくりと動き始める。何の心配もいらなかった。愛する人の起こす律動は慎也に深い快感を与え、慎也はその快感に溺れることしかできない。
 射精はほぼ同時だった。呼吸を整えながら要司が何度も髪をなでてくれる。セックスでこんなにも満たされたのは初めてだった。慎也がそれを実感しながら、目の前にある光を見ていると、要司はアナルからペニスを出して、後処理を始める。浴室へ行き、また戻ってきた彼は慎也のことを横抱きした。
「風呂、一緒に入ろう」
 頷くとぎゅっと抱き締められる。
「要司さん。要司さんは俺のどこが好き?」
 まだ甘い快感に麻痺している頭で考えた問いを口にすると彼はすぐに答える。
「頑張りやさんなところ、優しいところ、我慢強いところ、俺のことを優先するところ、わがまま言った後に反省するところ、すげぇかわいい。それから」
 まだまだある、と続けようとする要司に慎也は泣いた。自分にそれだけたくさんの価値があると言ってもらっているようで嬉しかった。
「要司さん……あ、愛してます」
 自分も彼の好きなところを言おうとしたのに、つい一言で告白してしまった。要司の目が丸く見開かれる。
「だから、捨てないで」
 次の言葉にも要司は驚いたようだ。だが、すぐに笑って、「何、言ってんだ」と軽く慎也の額を叩いた。

 要司は今日が休みならいいのに、と言っていたが、木曜の今日は二人とも出勤だった。彼を送り出した後、慎也も準備をして、家を出る。いつもと変わらない。これからも日常は変わらない。だが、慎也にははっきりと分かる。これから共に過ごしていく時間の長さだけ、要司への気持ちが深まっていくのだ。
 慎也は自転車をこぎながら、要司の昨日の言葉を思い出していた。
「何、言ってんだ。仕方ないなぁ。じゃあ、俺がどんなにおまえを愛してるか一生かけて教えてやる」
 マフラーに隠れた口元が自然に緩む。冷たい風が顔をなでていくが、慎也はちっとも寒くなかった。

それから3 そして1(要司視点)

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