世界一のヒロインバカ(高3)







「十代ー、現国の教科書貸してくれー」

「別にいいけどよ。汚すなよ、マーカーとか引くんじゃねーぞ。作者の顔に落書きすんなよ」

「ははっ。んなことするわけないじゃん!」

「したよ!お前この間世界史Bの教科書のラージプート絵画の挿し絵に色塗っただろ!あれは塗り絵じゃねーよ。てかオレの教科書!やるなら自分のにやれよ」


教室で廊下側に面した席のオレに、ヨハンが声をかけてきた。こいつとは保育園の時からのいわゆる親友ってやつ。
どこか自分に似てるとこがあって付き合いやすいのも腐れ縁の理由なのかもしれない。


「悪い悪い。あ、そうそう、舞姫のやつ5組の男子にコクられて泣いてたぜ」

「何かされたのか?」

「犯されかけたっぽい?」

「それを早く言えェェェ!!」


ガタンと勢いよく立ち上がる。


どうしてこいつはいつもいつも核心を最後に持ってきやがる。回りくどい。レポートじゃねーっつの! 核心を最後にもってくるって、何用法だっけ?あれ、忘れた。
いや、今はんなこと考えてる場合じない。

舞姫が心配だ。


舞姫とはマイスウィートハニー…ではなくヨハンと同じく保育園からの友人だ。何というか、すべてにおいてオレの中の恋人にしたい理想の女の子像にドンピシャなわけで。

可愛い、愛らしいに加えて世界を揺るがす(自分的に)天然という最強の武器を固定装備しているのだ。

そんな彼女だが、実は恋愛の恋の字も知らなかったりする。彼女の中の「好き」は、お菓子が好きとか猫が好きとかのレベルだ。
おまけに赤ちゃんは未だにコウノトリが運んできてくれると信じている。保健体育をつまらないという理由でいつも寝ているというのが問題かもしれないが。

天然にして純粋。

それが彼女の長所でもあり短所だ。


大方今回も話があるから来てほしいと男子に呼ばれて何の疑いもなくノコノコ着いていったんだろう。

何というか彼女には危機感がない。


中1のときも変なロリコンオヤジに誘拐されて1週間監禁されたというのに、警察が乗り込んできても全く何のことかわからないと言う感じだった。

そんな彼女の様子に両親は号泣してたっけ。


ツカツカと廊下を歩いてヨハンのクラスに向かう。
ちなみにヨハンと舞姫のクラスは同じだ。


ガラリとドアを思い切り開けてやるとちょうどドアを開けようとしていた明日香とぶつかった。


「ぶっ」

「十代っ…前見なさいよ」

「悪い…舞姫は?」

「舞姫?舞姫ならドローパン食べてるわよ」


明日香が指差した方向を見ると、舞姫はヨハンの話とは違ってニコニコ笑いながらパンを食べていた。

泣いてねーじゃん。


というか、舞姫の周り、男子ばっかりだな。 男子が下心をを乗せていくドローパンがどんどん彼女の机に置かれていく。

あーもー…貢ぎ物じやん、それ。

ていうか、仲の良いやつ以外から物もらうなって言っただろ!!

いやまてよ、あいつの中ではクラスのやつは皆仲の良いやつってことなのか?

それならもうちょい範囲を絞らないといけないな。

「オイ、お前ら…オレの舞姫にちょっかい出してんじゃねーよ」


舞姫には聞こえないくらいの声でつぶやいてから彼女を囲んでいる男共を睨む。すると男共は一度顔を引きつらせた後、蜘蛛の子を散らすようにバラけていった。

男共の去った彼女の席には舞姫とオレだけ。

未だにドローパンを食べている舞姫の頭を撫でてこちらに気付かせる。すると舞姫はぱっと顔を上げてオレを見上げた。


「あ、十代くんっ」

「お前、元気そうじゃん。泣いてるっつーから見にきたのにさ」

「泣いてる?あぁ、もう平気。知らない子にお話があるって言われてね、ついてったらいきなり抱きつかれて、びっくりして、泣いてたらヨハンが助けてくれたんだよ」

「は?」



どういうことだ?

クルリと振り向いて後ろに居るであろうヨハンを見据える。するとヨハンは腹黒い笑みを携えて机に座っていた。


「お前…事後報告かよ。舞姫のやつケロッとしてんじゃん」

「いやー、楽しかった。舞姫のことになると十代、血相かえるからさ」

「楽しんでんじゃねーよ」


あぁこいつが腹黒くなったのっていつからだっただろう。ふと考えてみる。 最近のことじゃない。 ならいつからだった?


ヨハンの足を蹴ってやりながら眉を寄せていると、急に背中に違和感。腹に手が回ってるってことは、誰かに抱きつかれてるってこと。

こんなことをするのは一人しかいない。 目の前のヨハンも青ざめてるくらいだからな。

相手は限られてる。


クルリと顔を横に向けると、蜂蜜色の髪が目に入った。


「ヨハンが頭を撫でてくれたけどね、十代くんが来てくれてうれしかったよ」

「舞姫…」

「十代くん大好き」


あぁ。もう。何なんだよこいつ。

可愛すぎ。


さよなら。オレの怒りよ。


何だかんだ言ってオレは彼女にベタ惚れなので、舞姫が出てくるとどうでもよくなっちまうらしい。



そんなオレは世界一の舞姫バカだ。


fin


現在十代たちは高3です。ちなみに十代の性格は割と保育園パロ時の二十代と同じかんじ。ヨハンは十代をおちょくって楽しむ悪い子に育ちましたがヒロインちゃんには優しい子です。












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